近年、多くの企業が「サステナビリティ(持続可能性)」や「ESG経営(環境・社会・ガバナンス)」を掲げています。環境への配慮やコンプライアンスはもちろん重要ですが、忘れてはならないのが「働く人の安全と健康」です。
どれほど環境にやさしい製品をつくり、CSR活動(企業の社会的責任活動)をしても、従業員が安心して働けない職場であれば、その企業は本当の意味で持続可能とは言えません。
私は陸上自衛隊で33年間、安全管理と事故調査に携わってきました。そこで痛感したのは、「人を守れない組織は、長期的に任務を継続できない」ということです。この教訓は、企業経営にそのまま当てはまります。
1.サステナビリティ経営と労働安全衛生の関係
サステナビリティ経営は、株主や顧客だけでなく「従業員」「地域社会」「取引先」といったすべてのステークホルダーに責任を持つことを意味します。
その中で労働安全衛生は「社会(Social)」の最重要テーマの一つです。ILO(国際労働機関)も「安全で健康的な職場は基本的人権である」と位置づけています。
安全活動は単なるコスト削減や法令遵守のためではなく、企業が社会的に信頼され、持続的に成長するための基盤なのです。
2.安全活動は「人的資本投資」そのもの
現在、「人的資本経営」が注目されています。従業員をコストではなく資本と捉え、その能力を最大限に活かすという考え方です。
その第一歩が「安全を守ること」です。
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安心して働ける環境があるからこそ、従業員は力を発揮できる
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健康を損なわずに働き続けられることが、人材の定着につながる
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安全文化のある職場は、採用やイメージアップにも直結する
事故や病気で人材を失えば、企業の競争力そのものが損なわれます。安全活動は、まさに人的資本への投資です。
3.安全と環境・品質はつながっている
サステナビリティ経営においては「環境保護」「品質管理」も大切な柱です。実はこれらと安全活動は密接に結びついています。
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安全な作業環境は、無駄の少ない効率的な工程を生む
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整理整頓された現場は、品質不良や環境負荷の低減にもつながる
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危険を排除する仕組みは、同時に廃棄ロスやエネルギー浪費を防ぐ
安全文化を育てることは、環境や品質と同じベクトルで「持続可能な経営」に直結するのです。
4.サステナビリティ報告に「安全指標」を入れる
近年は統合報告書やサステナビリティレポートを発行する企業が増えています。その際に重要なのは、労働安全衛生の指標をきちんと盛り込むことです。
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労災発生件数、度数率・強度率
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ヒヤリハット報告件数
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安全教育の実施回数・受講率
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健康診断受診率やメンタルヘルス相談件数
これらを透明性のある形で公表することが、投資家や社会からの信頼につながります。実際に欧州では「安全衛生への取り組みの不十分さ」が投資判断に影響するケースも出てきています。
5.サプライチェーン全体の安全文化
サステナビリティ経営では、自社だけでなくサプライチェーン全体の持続可能性が問われます。協力会社や下請けを含めて安全文化を共有しなければ、事故が起きたときに「元請企業の責任」が問われる時代です。
ISO45001も「サプライチェーンを含めた安全管理」を求めています。協力会社との合同教育や情報共有は、もはや選択肢ではなく必須事項です。
6.経営者のリーダーシップが社会的信頼を築く
サステナビリティ経営において、経営者が「安全」を最優先に掲げることは、社内だけでなく社会への強いメッセージになります。
私が部隊長を務めたときも、上級司令官が「安全なくして任務なし」と繰り返し発信することで、部隊全体の文化が変わりました。企業でも同じで、経営トップが「安全は我が社の持続可能性の根幹」と語ることが、従業員と社会の信頼を同時に獲得するのです。
まとめ
安全活動は「法令遵守」や「コスト削減」の枠を超え、サステナビリティ経営の核心に位置しています。
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安全は社会的責任であり、人的資本への投資
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安全文化は品質・環境とも連動し、持続可能性を高める
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サステナビリティ報告には安全指標を盛り込むべき
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サプライチェーン全体で安全文化を共有する
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経営者のリーダーシップが社会的信頼を築く
「安全なくして持続可能性なし」。これが、未来を見据えた経営の鉄則です。
ワラビー社会保険労務士事務所代表 渡辺 忍
