職場の安全安心サポート

職場の安全安心サポート

企業の労働安全衛生管理に力を入れて活動しています。職場の安全対策やメンタルヘルス対応、健康診断や労災対策など、従業員が健康で安心して働ける職場づくりをサポートする情報を中心に発信します。

5月21日。

 

今日から新しい連載を始めます。

 

これまでの連載(第245〜294回)は、安全教育・OJT支援・メンタルヘルス・コンプライアンス・緊急対応術と、さまざまなテーマをお届けしてきました。

 

今回は、社会保険労務士として、今まさに経営者の皆さんと毎日向き合っている「喫緊の実務課題」に絞ってお届けします。

 

「年収の壁」の問題です。

 


「知らなかった」では済まない転換点が、今ここにある


2025年6月、年金制度改正法が成立しました。

 

そして2026年度の税制改正大綱では、配偶者控除の拡大が決まりました。

 

この二つの改正が重なることで、長年にわたってパートタイム労働者の就業を縛り付けてきた「年収の壁」の構造が、根本から変わります。

 

変化のポイントは大きく三つです。

 

① 「106万円の壁(賃金要件)」の撤廃 

 

週20時間以上という労働時間の要件を満たせば、月額8.8万円(年収換算106万円)という賃金要件に関係なく社会保険に加入することになります。

 

2028年までに完全撤廃が法定化されました。

 

② 「130万円の壁」の判定基準変更 

 

2026年4月から、社会保険の扶養認定は「基本給・固定手当等の所定内賃金」のみで判定されます。

 

残業代や一時的な収入は判定に含まれなくなります。

 

③ 「配偶者控除」が131万円に拡大 

 

税制上の配偶者控除の適用範囲が、これまでの103万円から131万円(大学生等の特定扶養控除は158万円)に引き上げられます。

 


これは「制度の話」ではなく「経営の話」です


社会保険労務士として日々の相談支援の中で、毎日のように中小企業の経営者・人事担当者からのご相談が入ります。

 

その中で、最もよく聞く言葉があります。

 

「うちはまだ50人以下だから、社会保険の適用拡大は関係ない」

 

「年収の壁の問題は、従業員個人の問題でしょう?」

 

「制度が変わっても、うちのパートさんたちはこれまで通り扶養の範囲内で働きたいはずだ」

 

これらの認識は、2026年以降、すべて現実と大きくずれていきます。

 

まず、社会保険の企業規模要件は2027年10月から段階的に縮小され、2035年には規模に関わらずすべての企業が対象になります。

 

「まだ先の話」と思っていると、準備のないまま対応を迫られます。

 

次に、判定基準が変わることで「残業しても扶養が外れない」という新しいルールを従業員が理解すれば、年末の就業控えは構造的に解消されていきます。

 

これは、人手不足に悩む事業者にとって、本来は追い風のはずです。

 

そして、「これまで通り扶養の範囲内で」という従業員の意識は、制度の正確な説明と手取りシミュレーションを丁寧に示すことで、変わることがあります。

 

その対話をしているかどうかで、職場の変化の速さが決まります。

 


この連載でお届けすること


今日から10回にわたって、以下の内容をお届けします。

 

第2回では「就業調整が会社に与えている隠れたコスト」を整理します。

 

第3〜4回では「130万円・131万円という新しい境界線の正確な意味」を解説します。

 

第5回では「自社のデッドラインがいつか」を把握するための情報を提供します。

 

第6〜9回では「従業員との合意形成の進め方と実務の手順」を具体的にお伝えします。

 

第10回では「コストとして捉えるか、投資として捉えるか」という経営判断の軸を提示します。

 

助成金の話は、この連載では割愛します。

 

今回お伝えしたいのは、「制度の波をどう読み、従業員とどう対話し、組織としてどう乗り越えるか」という経営と人事の話です。

 


今日のアクションプラン


今週中に、次の数字を把握してください。

 

「自社のパートタイム従業員のうち、年収103〜130万円の範囲で就業調整していると思われる人数」

 

給与明細や勤怠記録を確認すればおおよその人数は把握できます。

 

把握できない場合は、年末に急にシフトを外れる人数を思い出してください。

 

その人数が、この連載で取り組むべき「自社の課題の大きさ」です。

 

次回Vol.2は「なぜ『年収の壁』は、あなたの会社を蝕んでいたのか」をお届けします。

 

就業調整が経営に与えている「見えないコスト」の全体像をお伝えします。

今日のまとめ

この連載に関するご相談は、ワラビー社会保険労務士事務所までお気軽にどうぞ。

 

完全オンラインで対応しております。

 

ワラビー社会保険労務士事務所 社会保険労務士 渡辺 忍