職場の安全安心サポート

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企業の労働安全衛生管理に力を入れて活動しています。職場の安全対策やメンタルヘルス対応、健康診断や労災対策など、従業員が健康で安心して働ける職場づくりをサポートする情報を中心に発信します。

「えっ、あの子が?」

 

朝のミーティング直前、部長から告げられた衝撃の事実に、オフィスの空気が一瞬で凍りつきます。

 

先月入社したばかりの期待の新人B君が、突然退職届を出したというのです。

 

「仕事も順調に覚えていたし、昨日も普通に挨拶して帰ったのに……」

 

あなたは狐につままれたような顔で、彼が座っていた空っぽのデスクを見つめます。

 

そこには、まだ整理されていない書類と、彼が一人でランチを食べていた痕跡だけが残されています。

 

「なぜ?」という問いが頭をグルグルと回ります。

 

業務量が多すぎたのか? 指導が厳しすぎたのか?

 

いいえ、違います。

 

彼を殺したのは「業務量」でも「叱責」でもありません。

 

「孤独」という名の、目に見えない毒ガスです。

 

今日は、なぜ優秀な若者が「誰も相談できない」という理由だけで組織を去るのか、そしてそれを防ぐための鉄壁の守り方についてお話しします。

 

陸上自衛隊で最も過酷と言われる「レンジャー訓練」。

 

それは、単なる体力勝負ではありません。

 

睡眠時間はわずか数十分。極限の空腹と疲労の中、40キロ以上の重装備を背負い、道なき山中を数十キロにわたり、音を殺して進み続けます。

 

任務は「潜入」

 

足音ひとつ、装備の接触音ひとつで敵に見つかれば、即座にゲームオーバー。

 

その極度のプレッシャーが、昼夜を問わず彼らの精神をギリギリまで削り取っていきます。 

 

思考は鈍り、ただの木の影が敵兵に見えたり、幻聴が聞こえ始めたりすることさえあります。

 

極限状態では、人間は自分のコンディションすら客観的に把握できなくなるのです。

 

この地獄のような状況下で、教官が絶対に許さないことが一つだけあります。

 

それは「単独行動」です。

 

トイレに行く時ですら、彼らは必ず「バディ(相棒)」と行動を共にします。 

 

なぜなら、人は極度のストレス下で物理的にも精神的にも「個」になると、タガが外れたように正常な判断力を失い、心が折れて脱落(自滅)してしまうからです。

 

「お前、顔色が悪いぞ、水飲んだか?」

 

「装備の紐が緩んでるぞ、直してやる」

 

 自分では気づけないミスや不調を、もう一人の自分が鏡のように指摘し、支える。

 

互いに声を掛け合い、背中を預け合うバディがいるからこそ、人間は「自分一人ではない」という事実をよすがにして、限界を超えた「戦場」で生き残ることができるのです。

 

翻って、私たちの職場はどうでしょうか。 

 

新入社員には「OJT担当(直属の先輩)」がつきます。

 

しかし、この先輩は業務を教える「教育係」でありながら、同時に彼らの能力をジャッジする「評価者」でもあります。

 

新人にとって、自分の生殺与奪の権を握る先輩に、本音の「弱音」を吐けるでしょうか? 

 

「こんな初歩的なことを聞いたら、できない奴だと思われるんじゃないか」「失望されたくない」 そんな恐怖心が先に立ち、彼らは「大丈夫です」という笑顔の仮面を被り続けます。

 

質問はいつしか気軽な「相談」ではなく、ミスの許されない「報告」へと変わってしまうのです。 

 

そうやって口をつぐみ、誰にも本音を話せないまま、心のコップが不安と孤独の水で一杯になり、ある朝突然、溢れ出してしまうのです。

 

新人に必要なのは、業務を教える「上司」だけではありません。

 

利害関係や評価を気にせず、鎧を脱いで心を許せる「斜め上の相棒(バディ)」なのです。

 

では、4月からどう体制を整えるべきか。明日からできる「絆」の作り方を提案します。

  • 「ナナメのメンター」を任命する
    直属の上司やOJT担当とは別に、他部署や少し年次の離れた先輩を「メンター(相談役)」として公式につけてください。
    業務の指導は一切せず、「最近どう?」とガス抜きをするためだけの役割です。

  • 「雑談の強制イベント」を作る
    「困ったら相談して」は機能しません。
    新人は遠慮します。週に1回15分、必ずメンターと雑談する時間をスケジュールに入れてください。
    「強制された雑談」こそが、逃げ場のない彼らの救命ボートになります。

  • 孤独を「管理不足」と捉える
    新人が一人でランチを食べている光景を見たら、それは「自立している」のではなく「SOSが出ている」と捉えてください。
    孤立は個人の問題ではなく、組織の構造的欠陥です。

戦場で隊員を死なせないための最大の武器は、最新のライフルではありません。

 

「隣に仲間がいる」という確信です。

 

「辞めます」という言葉は、彼らが発する最後の悲鳴ではありません。

 

ずっと前から発していた「無言の悲鳴」に、私たちが気づけなかった結果なのです。

 

次の新人が来る前に、どうか「相棒」を用意してあげてください。

 

その一人の存在が、彼らにとって職場を「戦場」から「居場所」に変える魔法になるのですから。

 

以上いかがでしたでしょうか?

 

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今日のまとめ

ワラビー社会保険労務士事務所 社会保険労務士 渡辺 忍