先日、ある経営者とM&A業界の流れについて話していた。
今までのM&A業界は、とにかく専門家を増やす時代だった。
仲介会社が増え、アドバイザーが増え、プレーヤーが急速に拡大してきた。
それが、いま大きく変わろうとしている。
国家資格としての試験の導入が決まり、業界は明確に、数の時代から質の時代へ進化していく。
■ 厚くなり続ける「安心安全」のレイヤー
数が増えるほど、事故も増える。
反社チェック、eKYCによる本人確認、ISMSのような情報管理。
プラットフォームが担うべき安心安全のレイヤーは、年々厚くなっている。
ここにAIの時代が重なる。
生成された情報の真偽。なりすまし。AIによる過剰な評価や誘導。
新しいリスクが、これからどんどん表に出てくる。
仕組みでカバーする部分は、これからも増え続ける。
これは業界の前提だ。
■ ただ、本当の壁は「情報の非対称性」
その経営者と話していて、一番深いと感じたのはここだった。
M&Aの世界は、情報が一部に集まりすぎている。
どんな会社が売りやすいのか。
売却金額は、どんなロジックで決まっているのか。
仲介会社と事業会社で、なぜ期待がずれるのか。
こうした構造的な情報は、一般の経営者にはほとんど届いていない。
仲介会社のビジネスモデルは、成約手数料。
クロージングしない限り、収入が立たない。
そうなると当然、インセンティブはオーナーとはまた別のところで働く。
これは仲介の人が悪い、という話ではない。
完全にオーナーに寄り添える状態を作りにくい、構造そのものの問題だ。
ここを理解しているかどうかで、オーナーの判断は大きく変わる。
■ 仕組みだけでは、解けない
TRANBIはここ数年で、安心安全の仕組みを積み上げてきた。
ISMS、eKYC、反社チェック。
仕組みでカバーできる範囲は、しっかりやる。
ただ、AI時代に入って改めて感じるのは、仕組みだけでは追いつかない領域がある、ということ。
最後は、経営者自身が判断できる側に立てるかどうか。
自分の会社の価値を、自分のロジックで説明できるか。
仲介会社の立ち位置を、構造として把握できているか。
そういう「賢い当事者」を増やしていかない限り、業界の質は本当の意味では上がっていかない。
TRANBIが成約にこだわらないサブスク型に振り切ったのも、ここに理由がある。
クロージング数を追わない代わりに、コミュニティを通じて経営者の学びを積み上げていく。
中小企業から生まれたプラットフォームだからこそ、できることだと思っている。
M&Aの安心と成功率は、最後は当事者の解像度で決まる。
仕組みと教育、この両輪でしか進めない領域がある。
■ 業界の次のステージ
質の時代の本丸は、専門家を増やすことではない。
オーナー自身が、自分で意思決定できる状態を持つこと。
情報を一部に閉じ込めず、開いていくこと。
プラットフォームの役割は、これから明らかに変わっていく。
情報を取り次ぐ場所から、情報を開き、経営者を育てる場所へ。
派手な変化ではない。
ただ、業界の中心がどこにあるのかは、確実に動いていくなと感じる。
