福岡空港に早めに着いた。
少し早い便に変更できないかと思ったけれど、マイレージ便は時間変更ができないらしい。
仕方がない。そういう日もある。
いつもならラウンジに直行して、仕事をする。
でも今日は、少し空港を歩いてみることにした。
ガラス張りの通路から、夕方の光が斜めに差し込んでいる。
スーツケースの車輪の音が、規則正しく床を転がる。
出張帰りらしい人、家族連れ、修学旅行の学生たち。
みんなそれぞれの場所へ向かっている。
この空港には、エニタイムフィットネスもあるし、マッサージもあるし、シェアラウンジまである。
小さな都市のようだと思った。
少し歩いて、居酒屋に入った。
カウンターの上には「本日売り切れ」の札がいくつも並んでいる。
人気店らしい。
それだけで、なんだか安心する。
鍋島を半合で頼む。
半合というのは、いい単位だ。
飲みすぎない。
でも、ちゃんと味わえる。
山田穂は、上品で繊細だった。
透明感があって、静かに芯がある。
がめ煮を一口食べる。
ごぼうの香り、鶏の旨み、根菜の甘さ。
派手ではないけれど、丁寧な味だ。
次に、赤磐雄町に変えてみた。
少し辛口に寄せたくなったのだ。
理由は特にない。
ただ、その日の気分というものがある。
日本酒は、食事と争わない。
寄り添う。
支え合う。
どちらかが前に出るのではなく、互いを少しだけ良く見せる。
その関係が、美しいと思った。
—
今日、この出来事をいろんな文体で書いてみた。
江國香織っぽく。
辻仁成っぽく。
村上春樹っぽく。
同じ空港。
同じ酒。
同じがめ煮。
でも、まったく違う世界になる。
毎日、Midjourneyで絵を描いても同じだ。
同じ山をテーマにしても、色も構図も空気も変わる。
どれも間違いではない。
それを見ていると、
人生に正解なんてものはないのだと、自然に思えてくる。
自分らしさとは何だろう。
固定された一つの形ではなく、
その日の気分で、少し辛口に寄せること。
その日の光で、少し色を変えること。
選び続けること自体が、
自分らしさなのかもしれない。
—
搭乗アナウンスが流れる。
早く帰れなかったおかげで、
半合の余白を持つことができた。
空港という場所は、
移動のための通過点だけれど、
ときどき人生の解像度を上げてくれる。
今日は、そんな日だった。
