〜「スモールM&A」の普及から戦略的ポートフォリオ整理の場へ〜

 

 

1. 過去5年間で起きたこと

市場の「民主化」と、その反動

まず、事実から。

 

TRANBIに公開された案件数は、
2021年の1,217件から、2025年には4,233件へ。


5年間で約3.5倍に増加しました。

 

これは単なる案件増ではありません。

 

「会社を買う/売る」という行為が、
一部の資産家や大企業のものから、

  • 個人事業主

  • 副業層

  • 中小企業経営者

にまで完全に広がり、
M&Aが“キャリアと経営の選択肢”として民主化した結果です。

 

一方で、価格の推移を見ると、もう一つ重要な動きがあります。

  • 2021年:中間価格 約1,100万円

  • 2022〜2024年:小規模案件の急増により 700万円台まで下落

  • 2025年:875万円まで回復

つまり、
市場は一度「小さければ何でもいい」という初期衝動を経験し、
2025年に入って、再び“質”を求め始めた

 

ここが非常に重要なポイントです。

 


 

2. 2025年マーケットを読み解く3つのインサイト

① 「戦略的損切り」と「事業再生」が同時に起きている

2025年のデータで最も示唆的なのは、

赤字案件の比率が高い業種と、
投資回収効率(ROI)が高い業種が一致している
ことです。

 

具体的には、

  • カフェ

  • レストラン

  • 居酒屋

といった実店舗系。

 

多くの法人が、
不採算部門を「0円〜格安」で戦略的に切り離し、
それをオペレーション能力のある買い手が
再生(ターンアラウンド)前提で取得する

 

特にこれらの業種は、
初期投資を抑えられれば 2.5〜3年で投資回収可能なケースも多く、
もはや高利回りの金融商品のような側面を持ち始めています。

 


② 「副業M&A」から「法人の事業再編」への回帰

2024年まで顕著だった
個人による出品の増加は、2025年に転換点を迎えました。

  • 2025年の法人による売却比率:約36%

これは偶然ではありません。

 

TRANBIは、
事業承継や小規模M&Aの受け皿という役割を超え、
法人が経営判断として事業を切り出し、
次の成長に向けてポートフォリオを再構築するための
インフラ
として機能し始めています。

 

買い手にとっては、

  • 組織化された仕組み

  • 教育された人材

  • 既存の顧客基盤

を丸ごと引き継げる、
よりプロフェッショナルな案件に出会える確率が高まったとも言えます。

 


③ デジタル資産の高騰と、実店舗の割安放置

ECサイトやSaaSなどのデジタル案件は、
依然として人気の中心です。

 

ただしその結果、

  • 買収価格は高騰

  • 回収期間(マルチプル)は長期化

しています。

 

一方で、

  • 民泊・ゲストハウス

  • 属人性の高い専門サービス

  • 地域密着型の実店舗

は、収益性の割に価格が抑えられたまま

 

2025年に買っている買い手の多くは、
競争の激しいIT系ではなく、

「リアルな拠点」を持つ事業を、
デジタル(SNS集客・DX)で武装する

という
「リアル × デジタルの融合」に軸足を移しています。

 


 

3. 業種別に見る「勝ち筋」

業種 2025年の状況 洞察
IT・EC・SaaS 人気最高潮・割高 完成品ではなく「未完成品」を安く買い、自社リソースで補完
民泊・ホテル 回収効率No.1(約2.6年) 利益よりも「立地」と「許認可」を買う
塾・教育 赤字率高いが回収は早い オンライン化・自習型転換ができる買い手には宝
飲食・バー 完全な買い手市場 固定客を持つ店舗を、法人の拠点・節税目的で取得

 


 

4. 総括:TRANBI市場は次のフェーズへ

2025年のデータを俯瞰すると、
TRANBIのマーケットは
「単なる売買の場」から「事業の組み換えを検討する場」へと
役割を広げつつあります。

 

ここで重要なのは、
「どの買い手が成功しているか」を断定することではありません。

 

むしろ、今回のデータが示しているのは、
これまで当たり前とされてきた
M&Aの前提条件そのものが、静かに書き換わり始めているという事実です。

 


データが示す、いくつかの変化の兆し

  • 人気業種に資金と関心が集中する一方で、
    価格や回収期間の観点では、必ずしも合理的とは言えないケースが増えていること。

  • 個人による出品が市場を広げた後、
    法人が経営判断として事業を切り出す動きが再び目立ち始めていること。

  • 財務上は赤字であっても、
    構造や立地、オペレーション次第で
    再設計の余地を持つ案件が一定数存在していること。

これらはすべて、
「何を買うべきか」ではなく、
「どう読み、どう組み替えるか」

が問われるフェーズに入ったことを示唆しています。

 


M&Aは「結果」ではなく「プロセス」になりつつある

今回のデータセットから見えてくるのは、
M&Aがもはや

一攫千金を狙うための手段ではなく、
経営資源をどう再配置するかを考えるための
プロセスそのもの

として位置づけられ始めている、という変化です。

 

売る側にとっても、
買う側にとっても、
M&Aは「ゴール」ではなく、
次の経営判断へ進むための通過点になりつつあります。

 


この先にある問い

2025年は、その変化が
数字として初めて輪郭を持ち始めた年だったのかもしれません。

 

この先、市場で問われるのは、

  • 規模の大きさではなく、再設計の余地

  • 人気ではなく、構造

  • 黒字か赤字かではなく、次にどう変えられるか

そうした問いに、
自分なりの答えを持てるかどうかです。

 

TRANBIは、
そうした思考を試される場へと、
静かに次のフェーズへ進んでいます。