愛のセレナーデ | けものみち

けものみち

日記のようなものです。

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書きかけの日記がいっぱいあります。
ちょうどこの顔みたい。

それらをほっぽらかして、私は喫茶店探しの旅に出ます。

でも残念ながら‥
1年少々前に偶然通りかかって、忘れられない店がありました。
「悪くないな」と思った程度なんだけど
歩いていてたまたまそういう店を見つけたのがうれしくて
けちな私の頭はそれを忘れなかったのです。


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結局ほとんどそこに直行。

階段と、灯り。


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窓と明かり。

あたたかそうです。

私はそこに行ってみましょう。


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これは‥

予想してたよりずっと「喫茶店」ですね。
ドアの向こうのこの暗さ。

橙色の灯りのための暗さであり
安らげる、木のうろのような暗さであります。

入りましょう。

うずくまるように椅子に体をおさめましょう。


っていうか(って、いきなり文が崩れちゃいましたが)
この写真撮ってるドアの向こうで
私を見つけた店員さんがもうスタンバってるんですよ。

いそぎましょう(*'ー')あせる


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おひとり様はカウンターに通されるみたい。

目の前に店員さんがいるのでちょっと緊張しかけましたが
そんな緊張することもないんだなって
少しして見えました。

迎えてくれた店員さんは
予想外に今時の若者でありました。

常連さんとサッカーの話を「ッスね」という口調でしている彼の
そのエプロンには缶バッジからピンバッジまで
実に15個ものバッジが留められています。

ロゴのやら数字のやら、トイ・ストーリーのやら。

まったく、厳格なタイプの喫茶店ではないみたい。


分厚いカウンターの位置は非常に高くて
しっかり背筋を伸ばして座っても
心臓より少し上にくるくらいです。

何か食べるのには少し食べづらいかも知れない(笑)

でもケーキもコーヒーも、あたり(*'ー')ドキドキ
ガトーショコラは乾く気配が全然無いタイプ。
上のガナッシュも美味しい。
しっかり甘く、しつこくはなく‥

私もしつこくするのはやめて、おかわりは我慢。


店員さんも常連さんたちも
おそろしく肩の力が抜けています。

私は気が抜けてきました。

なんかもう、いいや!
って気分になってきて、ナルシズムも消失します。

授業中に寝る男子高校生みたいに
カウンターに半分伏せるような格好になってみたりして

ぼさーーー‥


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沈んでゆきましょう。

記憶と感情の中へ。


そういえば私は今日、ダンスを観に来たのです。

書きかけの日記があるけれど
いま観て思ったことをもう書こうって
それで、日記を書けそうな喫茶店を探しに出たのです。


今ここへ、記憶を手繰り寄せる。


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アキコ・カンダ モダンダンス公演「愛のセレナーデ」

日記の出だしの、タローさん作のモニュメントも
その会場である青山円形劇場の表に立つものです。


私は小学校、中、高等学校と、しつこく同じ学校に通い続けました。
その12年のうち、偶然10年間も同じクラスにいた女の子がいました。
朝礼で倒れちゃうような貧血体質の女の子でしたが
しなやかな筋肉をもっていて
スポーツはよくできました。

彼女は子供の頃からモダンダンスを習っているのです。

大変きれいな人でもあって
話が合うでもないものの、私はずっと
なんというか彼女を意識し続けておりまして
今日も彼女の所属する舞踊団の公演に来たというわけです。

ブログタイトル「愛のセレナーデ」も
この公演のタイトルでした。

愛のセレナーデ!
まあ、私からそんな素敵な言葉が生まれるはずはありませんです(笑)

セレナーデってどういう意味でしたっけ。
しばらく、ダンスについて考えてから
ある日調べてみようと思います。

きっと私の想像するものとは別のもの。

「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」という曲をご存知ですか?
小さな(ひとつの?)夜の音楽、とかそういう意味だったかと思います。
そのタイトルから私は勝手に
ベートーベンの月光的なものを求めておりました。

ですが実際に聴いてみると、私が想像していなかった
明るさのある曲であります。

音楽は、聴くまでは分かりませんね。

そしてダンスは見ねばです!



今回の公演はⅠ部とⅡ部に分かれていて
第Ⅰ部は短編みたいなのが3本。
第Ⅱ部が、10章からなる本日のメインテーマ
「愛のセレナーデ」です。


無心に、感じるように見ようと思うのですが
私はいつも勝手なストーリーを妄想しながら見てしまいます。

妄想しながらというか‥
もはや妄想がメインみたいになったりします。
とめどなく‥

これより後はその妄想の書き散らしであります。

皆様におかれましては
グッドナイト

お元気で。




第Ⅰ部

「光の交錯」

軽やかな音楽。
舞踊団の主催の方以外の
今回出演するメンバー全員、11人による群舞。

光沢のあるボディスーツが衣装。
色は人によって異なる。
3色。ごく淡い赤、黄、緑。
光の三原色か。

その上から、強い光を当てるとはっきり見え
弱い光の時は透けて、下のスーツが見える布でできた
袖のない白いローブのようなもの。

3色に色分けされた人々は
踊りの中できっちりグループ分けはされていない。

光の粒のように
どの色がどこにいるか把握できない形で飛び回っている。



「空に消えた翼」

舞踊団主催の女性がしばらく独りで踊る。

白いシンプルな、袖のないロングドレス。
ただし紗のような布で腕は包まれている。

その腕を(言われてみれば、翼の動きを模索するように)動かしながら
舞台中をさまよっては立ち止まり
天に手をかざす。
再びさまよう。

過去に翼があって飛べていたものが、無くなってしまい
彼女は困惑している。

浮き上がろうとしては、それが叶わず不思議がっている。

なぜ? なに?

やがて疲れ果て、倒れている背後に
白い軽そうなケープをまとったものが2人現れて
ひとしきり、優雅に舞って去る。

翼を失ったものが目を覚ます。

独り、また少しさまよって
舞台の奥に置いた椅子に倒れかかり
暗転。

救いの無いままか‥

としんみり感心した瞬間
「ブラボー!」と野太い声が響いた。

あまりにも、演技が終わってすぐすぎるだろう。
まだ現実に戻さないでくださいませんか、と思う。

この舞踊団のメンバーは全員、美しい女性たち。
野太い声は花畑に投げ込まれた大根の様だった。

大根は大好きだけど、投げ込むべきは鍋の中です。



「幻想のマラゲーニャ」

11人、全員同じ紅い衣装で
2、3組に分かれたり、一列に並んだり、円になったり
形態をどんどん変えながら踊る。

レクォーナという人の曲らしい。
カスタネット、ギターetc.
フラメンコの曲。
情熱的で、時に悲壮感が漂う。

だからこんな妄想をする。

これは気丈でプライドが高く、情け深い女の話だろうか。

いや、少し違うみたいだ。


女は自分の魅力を知っている。
「振る舞い方」も熟知している。
それらを駆使して、男という男を、自分に惚れさせてみたりする。
時には相思相愛になり、情熱的に求め合いもする。
人生は楽しい。

そんな女が、自分と似たような男に出会う。

ひとつ、勝負をしてみよう。

もちろん私が勝つ。
私に惚れない男はいない。

この男はなかなか使えそうでもあるし
こいつを落とせばまた私の評判があがって
皆よりいっそう、こぞって私をほしがるだろう。


しかし、落とされたのは女の方だった。

男は自分に惚れさせるだけ惚れさせて
少し触れたらもう気が済んで
その女に興味などない。

彼は故郷に愛する人を1人もち
今日も街で別の女と指をからめる。


もはや会ってもくれない男が落とした陰の底にとらわれて
女は苦しさにのたうち回る。
彼女の世界は水も空気も失った。
涙が止まらず、思考は定まらない。


しかし気が遠くなるほどもがきつくした時
女の涙はその性質を変えている。

破れた恋から出た血のような涙から
もっと透明な何かになっている。

「ごめんなさい‥!」

私は悪い人間だった。

女は急に、そう思う。
そして全てのものに謝りたい
罪を償いたいと思う。

だが謝罪の言葉すら
誰かの気を引く呪文として使って生きてきた女には
罪の償い方など分からない。

おまけに女は自分自身で
謝罪したいのは、己が赦されたいがためでしかないと気がついている。

毎日毎夜、己の醜さばかりが目に映る。


以前ほどには魅力的でなくなった彼女を
女友達がなぐさめる。
「あなたは何も悪いことなんかしてないわ。」

「でもこれからは、あんまり無意味に好かせないことね。」


女は、目立たない友人を選んで平和な日々を送ろうとする。

しかしある日、街で魅力的な男に出会う。

大切にしたいというよりは‥
勝負を仕掛けたい男。

情熱的なテーマが流れる。


まだ同じ罪を犯すのか?
それとも、あの傷をまた負おうというのか?

女は怯む。

しかしいっとき置いて、女は堂々と背筋を伸ばす。

大丈夫。
今の私なら同じことにはならない。

勝負は勝負よ。

だけど、これはきっと
まっすぐな恋になる。



(第Ⅰ部 終わり)

(休憩20分)



第Ⅱ部『愛のセレナーデ』

音楽‥R・クレイダーマン


1「愛のセレナーデ」

もう、このシーンのためのクレイダーマンだと思う。
11人が美しく浮かれ回る!


2「行かないで」

暗転して、舞台を斜めに横切る光の中に
主催の女性が独り浮かび上がる。

黒いドレス。

第Ⅰ部とはまた違う彷徨と
「なぜ?」と、困惑。時に放心。

色白で痩せたダンサーが
衣装と演技で、より青白く見える。

しかし儚げにも、脆くも見えない。
クリアな動きが彼女をしっかりと
この世に存在させている。

存在しているせいで
苦しみから逃れられないという面もあることを
彼女が考えているかどうかは分からない。


3「悲しみのかなたに」

曲調を思い出せない。
同じ衣装‥白い(ダンス向きの軽く、光沢がある)ロングドレスが3人。
あまり激しくない踊りで
3人はほとんどの時間、別々な動きを舞った。

白いドレスには常に水色から黄緑までの間に分布する
どれかの色があてられていて
元からその色だったかのようになっている。

色は少しずつ変えられ続け
3人が同じ色になることはない。


4「去りゆく夢」

5人のダンサーが、淡く明るい色にドレスを染められて舞う
非常に明朗な踊り。

タイトルから、哀しい曲と踊りを想像していたら
まったく違った。

いかに、失われたその夢が美しかったか!

そういう踊り。


5「木漏れ日の詩」

タイトル通りのどかな踊り。

悪くないけれど、1つ前のとあまり違わない気がする。
目立つ違いは、こちらは1人で踊っていること。
それくらい。

傷の癒える描写なのかも知れないけれど
間延びした印象。

この部分、必要か?

なんて思ってしまいましたが
次の踊りと対になっていることに、数分後に気づかされました。

これは心象風景ではありません。


6「星空のファンタジー」

白いドレスを青い光で染めたダンサー8人が
流星のように舞い回ります。

舞台はいかにも夜らしく暗く
黒い壁面に、ミラーボールを使って星の光を散らします。

楽しい一幕。
まさに星空のファンタジーそのものであります。


7「鳥を夢みて」

いつの間にか敬語で書いてる事にさっき気がついた‥
まあいいや。

ダンサーは1人。
ドレスは白地に薄紅と黄緑の小花模様。袖は長袖で、白。

やや、ふくよかな女性がやさしく
幸せそうな様子で舞いました。

すべてが曲線という世界です。

現実世界的視点からみれば
こんなのは現実逃避とも言えますが
こういう時間も大切かと思われます。


8「哀しみの終り」

哀しみが終わり、ようやく明るい日々かと思いきや
むしろ急に暗い曲になる。
時に激しくもなる。

ダンサーは3人。
これは心の話か思考の話か、両方か。

3人が位置も動きもバラバラに激しくなったり
まとまって同調して、ひたひた悲しむ感じになったり
いっせいに激しく増大したりする。

哀しみの終盤にやってくる恐ろしい時間。


哀しみは生き物みたいに、意思を持っているのでしょうか。
己が薄れてゆくのを知って恐怖して
死にたくなさに奮起して
結果、我々を苦しませるのでしょうか。


9「ノスタルジー」

主催の女性1人。

明るい衣装でくるかと思って、また予想を外した。

黒地のドレス全体に、色の強い大きな花模様が
やや抽象画風に広がっている。

淡々と、美しい踊り。
厳しさを感じる。

この人は痛んだまま、なんて強いんだろう。

本人は「私は強くなんかない」と
思っているかも知れないけれど。


10「アリシア」

パンフレットの出演者の項には「全員」とあるが
まずは3人だけ。

第Ⅱ部で度々、色つきライトに染められてきた白いドレスは
今度は白いままだ。

3人、同調するタイミングの多い踊り。
曲もダンサーの表情も優しい。
軽やかで明るい。

しばらく踊ると3人は退場し
入れ替わりに9人出てくる。

9人は3人組を3つ作ると
先ほどの3人と同じ踊りを繰り返す。

それも済んだら
先に退場したダンサーたちが戻って加わり
全体的な群舞になった。

もし81人いたら、さらに増殖したんでしょうか?
舞台に乗りきらないか。

ダンサー、みっしり満載した舞台とかあったら
シュールだろうなあ。

などと阿呆なことを考えながら‥

まっさらな新しい細胞が生まれて増えて、活動するのを
ひとしきり、見守っておりました。