HELL FREEZES OVER(DVD) | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:COBY-70005(Columbia) 2000年(国内盤)

 

 

 先に個人的な思い出&感傷を少し。

 このライヴソフト”HELL FREEZESOVER”(以下HFO)をボクはカリフォルニア州ロスアンジェルスの郊外の街で初めて視聴しました。当時勤務していた会社の、海外拠点の立ち上げの手伝いで3カ月派遣された先のオフィスにあったLDプレイヤー(いやホンマにLDです)で何度となく観たHFOと、窓の向こうに沈む夕陽を今でも昨日のように思い出します。

 

 帰国後すぐに入手した中古のDVDはトールケースでした。それを知人に気前よく譲ってしまい、後悔とともに過ごした数年間にピリオドを打つべく、埼玉の北の端のブッ○オフで見つけたこの2000年盤を即買いしました。見つかってよかった…

 

 

 

 

 イーグルス(THE EAGLES)の再結成のきっかけとなったことで知られるHFOの、正確にはMTVの企画したライヴパフォーマンスは1994年、カリフォルニア州バーバンクにあるワーナーブラザーズのスタジオで収録されています。

 その2年前、リアルタイム派の皆さまはご記憶でしょう、1992年には同じくMTVの、当時は地味な企画のひとつだったアンプラグド”UNPLUGGED”にエリック・クラプトンが出演し披露した新曲”Tears In Heaven”がビルボード・ホット100チャートで2位を記録、アルバムも大ヒットしたことでアンプラグド‐アコースティック(生)楽器主体のアンサンブルのブームが巻き起こります。

 

 

 このHFOにおける、冒頭の”Hotel California”から”Learn To Be Still”までの6曲がそのアンプラグドスタイルで演奏されているのは、企画したMVT側からのオファーだったのかもしれません。

 

 しかし、こと”Hotel California”に限っていえば、結果として素晴らしいトラックとなりました。

 ガットギターの静謐なフレーズからコンガの重く深い響きが加わり、やがてギター3台があのイントロのアルペジオ(分散和音)を奏でるとオーディエンスが一斉に歓声をあげすぐにスタンディングオヴェーションとなる瞬間はいつ観ても鳥肌モノです。

 

 他の曲も、例えば”Tequila Sunrise”の淡く透明な感傷や”Learn To Be Still”のソリッドな確信も、アコースティックギターを中心に据えたアンサンブルだからこそ際立ったのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 最後となったシングル曲のリリースから1980年から数えて14年ののち、グレン・フライ、ドン・ヘンリー、ドン・フェルダー、ジョー・ウォルシュ、ティモシー・B・シュミットの5人が同じステージに立ったこと自体がひとつのドラマなのですが、それを書き始めるととんでもなく長くなってしまうので残念ながらここでは割愛します。

 それに、HFO収録曲のうち”The Heart Oh The Matter””Pretty Maids All In A Row”の2曲については過去に投稿したことがありますので、ご興味がある方はぜひご一読下さい。

 

 

 ここでご紹介しておくべきはジョー・ウォルシュがリードヴォーカルをとる”Help Me Through The Night”です。

 この曲、実はウォルシュの1974年のソロアルバム”SO WHAT”に収録されています。しかも1974年の時点ではまだ彼はイーグルスに加入していません。

 
 この曲を選んだ理由はレコーディング時の参加メンバーにあります。イーグルスからドン・ヘンリー、グレン・フライ、ランディ・マイズナー(ベース/ヴォーカル、後に脱退)の3名がバッキングヴォーカルとして加わっているのです。

 

 レコーディングから20年ののちに再び集まったヘンリーとフライに対して、イーグルスの公式アルバムに収録されていないこの曲を「演ろうよ」といったのがウォルシュなのか、それともMTVやレコード会社なのかはわかりませんが、ウォルシュもまたイーグルスに深い縁と強い愛情を持っていることをそれとなく示しているのではないでしょうか。

 

 

 

 

 再結成にありがちな批判を、かつてドン・ヘンリーが「絶対にありえない」ことの例えとして使った『地獄の業火が凍り付いたら』(Hell freezes over)を堂々と掲げることで強烈な皮肉そして逆説となったタイトル、照明効果・音響とも世界最高水準のステージ、さらにはオーケストラとの共演による重厚かつ一部の隙も無い演奏などをもって叩き返した痛快な傑作です。

 

 同時に、イーグルスの楽曲が時間の試練をものともせず、それどころかタイムレスな輝きを放つこと、それをどれだけオーディエンスが待ち望んでいたかを知らしめる記録でもあります。

 イーグルスというロックバンドの、苦闘と成功、避けられなかった破綻、「14年の休暇」(グレン・フライ)を経ての再集結という物語を形成する17編(曲)の短編集という比喩も、あながち大げさではありません。

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