ジョー・ウォルシュのスライド | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

 

 イーグルス(THE EAGLES)のメンバーにしてソロ活動も並行するギタリスト/ソングライター/ヴォーカリストのジョー・ウォルシュ(Joe Walsh)ですが、知る人ぞ知るスライド奏法の名手でもあります。今回はそのウォルシュのスライドについてご紹介します。

 

 

 1947年にカンザス州ウィチタに生まれたウォルシュは20代前半の頃にはバンド活動に本腰を入れるようになりますが、その頃に知り合ったギタリストの中にデュアン(ドゥエイン)・オールマンがいました。

 

 後にオールマン・ブラザーズ・バンドでその名を馳せるドゥエインと面識のあった若き日のウォルシュですが、1971年、ドゥエインはバイク事故により25歳の若さで世を去ります。

 その悲しい知らせを受けたウォルシュは、

ドゥエインの灯した火を絶やしてはならない

と固く心に誓ったといいます。そしてそれまであまり熱心に取り組んでいなかったというスライド奏法に身を入れるようになりました。

 

 ご存じのとおりドゥエイン・オールマンはスライドの名手であり、その自由闊達なフレージングから「スカイドッグ」(Skydog)の名を与えられるほどでした。ゲストとして参加したデレク&ドミノスの”Layla”(愛しのレイラ)におけるプレイはその代表といえるでしょう。

 

 上の動画では3:35あたりから長尺のアウトロ(後奏)に入りますが、その中を泳ぐように伸び伸びとプレイするドゥエインのスライドがじっくりと聴けます。

 

 

 ちなみに、スライド奏法の際にドゥエインが使用していたのは

 

 鎮痛剤(風邪薬だったかも)のコリシディン(Coricidin)の空容器、ガラスの小ビンでした。

 彼にしてみればたまたま指のサイズに合っていて、しかも入手が簡単だったから‐ではないかと推察されるのですが、彼の名演もあって後のギタリストはこぞってコリシディンの空きビンを選び、今ではギター用アクセサリに”Coricidin bottle”というカテゴリが確立されるほどになりました。

 …ってホントです。お疑いでしたらグー〇ルで 『コリシディン ボトル』 で検索してみて下さいませ。市販薬として流通していない日本で、しかもその空容器が売買されていたりしますから(^_^;)

 

  

 ではジョー・ウォルシュはというと、彼も一度はコリシディンのビンを試したことがあるそうです。

 ですが、彼の指はかなり太くサイズが合いにくいこと、ビンだと通気性が悪く、演奏していて汗で指の皮がふやけてしまい、その後の演奏に支障がでることもあって使わなくなりました。

 結局、

このようなタイプの、筒状の金属製に落ち着いたとのことです。

 

 

 

 

 ジョー・ウォルシュはスライド奏法と通常の奏法で使用するギターを持ちかえる手法をとるのですが、90年代からスライド用として手にしていたのが、

 

 この、2005年のメルボルンのステージでも活躍するリッケンバッカー(RICKENBACKER)社のギターでした。同じモデルを、後に”HELL FREEZES OVER”としてヴィデオ化された1994年の再結成コンサートにおいて”Pretty Maids All In A Row”でも弾いていたのをご記憶の方も多いかと思います。

 

 実はこのモデル、イーグルスの同僚グレン・フライのシグニチュア(本人仕様)モデルなんです。

 

 1992年に1000台限定で生産された230 GFというモデルなのですが、ウォルシュが初めて手にしたときは、自分の手のサイズには小さすぎると感じたそうです。

 ところがスライド奏法で鳴らしてみると実にうまくハマったことで、以後この230 GFは彼のスライド用となりました。

 

 改めて先のメルボルン公演の動画の、冒頭を注意して観ていただきたいのですが、グレン・フライはリッケンバッカーの自身のシグニチュアモデルではなくギブソン(GIBSON)社の、おそらくレスポールスペシャルの系統と思われるモデルを手にしています。

 そして同僚のウォルシュが、まるで自身の専用モデルかのようにスライド奏法で弾きたおします。しかもこの曲はイーグルス加入前の1973年にウォルシュのソロ名義でリリースしたもの。この曲のもうひとつの目玉であるトーキングモジュレイターもしっかりと登場、もはやウォルシュの独壇場なわけですが、それを嬉しそうに眺め、しっかりとコーラスまでとるフライ、度量の大きいヒトです…

 

 そのグレン・フライは2016年に世を去ります。

 それと前後して、ウォルシュは230 GFをステージにおけるスライド用ギターから引退させ、デューセンバーグ(DUESENBERG)社製モデルに移行させたようなのです。

 

 多くのギターを使い分けるウォルシュですから、アンプやエフェクトペダル等の使用機材の変更に合わせるためという、合理的な判断なのかもしれません。

 

 ですが、ボクには他の理由‐亡き友人へのリスペクトが込められているようにも思えます。インタビューの類には積極的に応じてくれるウォルシュですから、もしかしたらいつの日かその真意を明らかにしてくれるかもしれませんね。

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