MILES IN BERLIN | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:SOPL 163(CBS/Sony) 1970年代前半(国内盤)

 

 

 マイルズ・デイヴィス(Miles Davis)の膨大なディスコグラフィの中ではそれほど存在感は無いのかもしれませんが、ボク個人にとってはとても思い出深いアルバムです。

 

 マイルズの作品を、自腹で購入して聴いた最初のアルバムがこの”MILES IN BERLIN”(MIB)なのです。

 

 といってもその頃はまたCDでした。大阪市内に住んでいた頃、日本橋の中古レコード/CD店で何気なく手に取ったこのアルバムが、ボクのマイルズ歴の始まりでした。

 

 先に白状しておきますが、このアルバム、最初聴いたときはその良さや凄さが

全く理解できませんでした(`・ω・´)

 

 …なにぶんジャズを、スウィングのリズムを全く知らない、聴いたことのないド素人に、トニー・ウィリアムスのドトーのごときドラムはきつかったっス(;´Д`)

 その次に入手したのが”COOKIN’”だったのが、今考えればちょうど良かったのかもしれません。さらにしばらく後にはディスクガイドの類を参照するようになり、中古で安く売られていたからといってむやみに手を出すようなことはせず、慎重に選ぶようになりました。

 

 それから12年の年月が経ち、マイルズをはじめジャズにもかなり親しんできた‐少なくともスウィングのリズムが身体に沁みつき、ノれるようになった43歳の冬、新宿のタ〇ーレ〇ードで見つけたこのLPを、やや迷いながらも入手したのです。

 

ジャケット裏。

シュリンク残りなので当時の価格を示すステッカーも残っています。

ライナーには解説、その裏はディスコグラフィ。

 

 帰宅後にこの盤について調べてみましたが、発売年は不明となっていました。画像からお分かりいただけるとおりディスコグラフィは”IN CONCERT”まで掲載されていますので、70年代前半頃にリリースされた盤ではないかと思われます。

 

 

 

 

 1964年のベルリンでの公演の模様を収めたライヴ録音であり、マイルズのもとに


Wayne Shorter – Tenor saxophone
Herbie Hancock – Piano
Ron Carter – Double Bass
Tony Williams – Drums

 

 の4人が集まった、通称第2次黄金クインティットでの最初期の演奏でもあります。

 

 

 マイルズは後の自伝‐というよりロングインタビューで、とにかくトニー・ウィリアムスをべた褒めしているのですが、それを念頭に置いてこの時期のライヴを聴きなおしてみると、ウィリアムスの、マイルズ以上に「攻め」るプレイがバンドの原動力になっていることを思い知らされます。

 

 オープニングを飾る”Milestones”にしても、ウィリアムスのフェイヴァリットだったことで取り上げられているものとおもわれます。

 B面の”So What””Walikn’”ではスタジオアルバムに収録のバージョンよりもテンポが上がり、むしろハービー・ハンコックのピアノソロが短めのインターバルになっている感さえあります。

 

 ウィリアムスの性急なドラミングにハンコックも呼応するかのように緊張感あふれるフレーズを繰り出します。この二人とリズムセクションを構成するロン・カーターはさぞ大変だったことでしょう…

 

 

 

 

 この演奏が録音されたのは1964年ですから、既にザ・ビートルズはアルバムデビューを果たしています。

 そのビートルズのメンバーのアイドルであったエルヴィス・プレスリーはロックンロールなる新種のポピュラーミュージックのスターとしてメディアの注目を浴び、その影響を受けたトム・ジョーンズがソロシンガーとしてシングルをリリースしています。

 

 一方でジャズはカルテット~クインティット~セクステットといった少人数編成の「コンボ」による、主に管楽器奏者のリードプレイをフィーチュアしたソロ主体のモダンジャズが一般化します。

 さらにこの少し前にはフリージャズと称される、即興演奏の可能性を探るミュージシャンとその演奏が注目を集めるようになります。

 

 もう数年すると、電気楽器という武器を備えたロックミュージックのさらなる台頭に圧されてジャズミュージシャンは商業的な成功から遠ざかってしまいます。

 マイルズはそれと前後して電気楽器の導入を試み、エレクトリックベースを弾きたがらなかったカーターの脱退を招く一方、エレクトリックピアノによりハンコックの潜在能力をさらに開花させます。

 ウィリアムスはマイルズの意図するポリリズムの構築の一角を担い、ウェイン・ショーターは優れた作曲のセンスで貢献します。

 

 そうして”IN A SILENT WAY”から”BITCHES BREW”へとつながるエレクトリック期の傑作が出来上がるのですが、その手前の、いわゆるアコースティック期のマイルズの到達点にして成熟の極みともいえる演奏が、この1964年の録音として残されたのではないでしょうか。マイルズがこのメンバーでしか出来なかった演奏と、マイルスがたどり着けたモダンジャズの高みをうかがい知ることができます。

 

 

…なんてカッコいい書き方をしてしまいましたが、12年の月日を経てもやっぱり、MIBの演奏はボクには少々きつめです(;^ω^)マイルズならやはり、マラソンセッション期のアルバムあたりから聴き始めるのがいいかもしれません。

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