ROLL THE BONES(24K GOLD CD) | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:AF 116(Atlantic/Audio Fidelity) 2011年(US盤)

 

 

 以前からこのブログで公言しているとおり、ボクは装丁や希少価値よりも盤の状態を最優先する

 

聴ければええねん主義(`・ω・´)

 

にもとづいてレコードやCDを選ぶことにしています。

 

 そんなボクのもとにヒョイとやってきたこのラッシュ(RUSH)のCD、24K GOLD CD なのでございます(`・ω・´)

 …って、何でしょう?ハイ、実はボクも初めてなのです。

 

 

 このCDは新宿のデ〇スク〇ニオンの、別館というべきなのでしょうか、ヘヴィメタル館で見つけました。

 〇ニオンさんにとってラッシュはヘヴィメタルに分類されるべきバンド、らしいのですが、もっと困るのはアーティストを出身国と年代に分ける同社の展示方法です。カナダ出身で70年代から2010年代まで活動していたラッシュはどこに区分されるのでしょうか(;´Д`)

 

CDの下はこのように。

通し番号がふられた数量限定盤のようです。

この状態で販売されていたようです。

 

 

*

 

 

 帰宅後、さっそく聴いてみます。

 …あのぉ、以前持っていた輸入盤と変わらないぐらい音量レベルが低いんですけど(;´∀`)

 

 この時点で

やってまいましたわ(;´Д`)

と若干ヘコみかけますが、少しずつ音量を上げていくと、音の分離が改善された明瞭な音像に気づかされます。各楽器に加えられたリヴァーブ(残響)もしっかりときこえることで、以前のCDではかなり平板で味気なく聴こえていたアンサンブルに深みが感じられます。

 ただし、ベースとドラムの低音が細く頼りないのは変わらず。いわば「ウワモノ」(上物)、ギターやシンセサイザー、ヴォーカル等のパートが強化―というより強調された音像は、ボクにとってはあまり感動できるものではありませんでした。

 

 とはいえ以前聴いていた輸入盤CDの音質に不満だったボクにとって、デジタルリマスター&音質改善されたこの24KCDは、買い直しとしては最良の選択だったといえます。

 

 というわけで、もしこの24K GOLD CDの購入をご検討の方には、あまり過度な期待は禁物であると申し上げておきます。ボクは感動もなければ落胆もないのですが、現行の国内盤CDと大差ないぐらいの金額を払ったことを考えれば、フルではなく

セミやってまいましたわ(;´Д`)

というところです。

 


*

 

 

 前作”PRESTO”でバンドの原点たる「パワートリオ」路線に回帰したラッシュは、このアルバム”ROLL THE BONES”(以下RTB)でもルパート・ハインを引き続き登用します。

 

 そのハインにとっても、かつて70年代に隆盛をほこったパワートリオ形態を、90年代のシーンにアップデイトさせることはなかなかの難題であったのではないかと想像されます。もちろん、共同プロデュースにクレジットされるラッシュの3人にとっても、決して簡単なことではなかったはずです。

 ロックが一部の「分かっている」リスナーのもの、若者のアンセムだった時代は去り、ロックバンドも一定の、高い商業的な成果を常に求められるようになった90年代、まもなくデビュー20周年を迎えようとしていたラッシュも、その在り方や市場における評価を意識するようになったのではないでしょうか。

 

 そんな「安定」とは、不思議なことに真逆なのですが、RTBの収録曲の歌詞を読んでみると「賭け」ること―未来を信じて無謀な計画に出ることや、望むものが手に入るならば代償をいとわないことをテーマにしたものが多いことに気づきます。

 作詞担当のニール・ピアートの、39歳(当時)になってから心に浮かんだかつての若き日々への感慨、と推察することも出来ますが、同時に、若く向こう見ずなままではいられない、オトナになったロックンローラーという、前例のない存在になろうとする自身への戸惑いもあったのではないかと、43歳になったボクは思ったります。

 

 

*

 

 

 RTBを聴きなおすたびに感じるのがリズムプロダクション、もっといえばドラムプレイが大人しいことです。

 

 もちろん、稀代の名手ピアートのドラムがつまらないはずはなく、才気のきらめきを感じさせるフレーズがあちこちにちりばめられています。 

 しかし、どうも、全体的にスクエアというか、躍動感や意外性に乏しいプレイに終始しているように感じられてしまうのです。

 

 これが前々作”HOLD YOUR FIRE”であれば、ファスト―スロウのパートを行き来する際の緊張感を演出するプレイで聴き手をドキドキさせてくれましたし、前作”PRESTO”であれば”Show Don't Tell”のような、変則的かつタイトなプレイを聴かせてくれたのですが、RTBにはそういった際立った印象の曲が見当たりません。

 これがピアートの意図的なものなのか、ハインのディレクションに従ったものなのかははっきりしませんが、ゲディ・リーの攻撃的で音数の多いベースプレイにはあまり変わりがないことをふまえると、どうにも物足りなさを感じてしまいます。

 

 もっとも、ピアートは自身のドラムプレイのさらなる発展を望み、RTBリリースの後にフレディ・グルーバーに師事、”TEST FOR ECHO”以降の作品でそのアップグレードしたピアートをたっぷり聴くことができます。

 

 それと、シンセサイザーの比重が上がっていくことに不満を抱いていたというアレックス・ライフソン(ギター)も、次作”COUNTERPARTS”ではグランジの影響を受けたヘヴィで分厚いギターをこれでもかと鳴らしていることを考えると、RTBはそういったラッシュの90年代中盤以降の飛躍のためのステップボードだったといえるのではないでしょうか。

 

 さらにいえば、その”COUNTERPARTS”でエンジニアを務めたケヴィン・”ケイヴマン”・シャーリーは”PRESTO”とRTBにおけるハインの音像について

音の線が細い(  ̄っ ̄)

と苦言を呈していましたが、そのシャーリーが指摘するシャリシャリの音は彼の提言により一気に先祖返りした機材のおかげもあって、まるで別のバンドかと驚く(・_・)ほど激変するのですが、アンサンブルの構築という点ではハインの提唱した90年代型パワートリオをそのまま踏襲していることを考えれば、やはり、RTBでラッシュが得たもの、逆に足りないことに気づいたものは後の作品にちゃんと活きているとは考えられないでしょうか。

 

 

*

 

 

 RTBについてはもうひとつ、個人的に思うところがありますが、ここからは楽器や機材に興味のない方にとっては面白くない話になりますのでスルーしていただいてもかまいません。

 

 ヴォーカリストにしてベーシストのゲディ・リーがRTBの頃にメイン機としていたのはウォル(WAL)社のマッハ2(MACH 2)というモデルでした。

 

って、抱えている画像だと分かりにくいですよね。

 

 ファンの皆さまには”The Big Money”のヴィデオクリップでプレイしている黒いベースといえばお分かりいただけるでしょうか。

 

 

 

 

 UKの電気技師イアン・ウォーラーと数人で創業したウォル社は高品位な電気回路と、ミュージシャンの要望を柔軟に採り入れた高い技術が評価され、ポール・マッカートニー、アンディ・テイラー、パーシー・ジョーンズといったUKのベーシストの使用で知られています。

 それと、これはイエスのファンの方にはおなじみの、”Awaken”の演奏時にクリス・スクワイアがプレイするトリプルネック、そう3本のネック(棹)を備えたあのベースの特別制作を引き受けたのもウォル社なのです。

 

 

 

 リーはこのウォル・マッハ2を”GRACE UNDER PRESSURE”のフォローアップツアーの前後に入手したとされ、以来”POWER WINDOWS”からRTBまで、レコーディング、ステージ共にメインとしてきました。

 

 そんなリーも”COUNTERPARTS”のレコーディングで、先述のシャーリーに半ば強引に押し付けられるようにかつてのメイン機材だった、そして90年代には既に旧式化していたアンペグ(AMPEG)社の真空管式ベースアンプと、時たまレコーディングで弾くものの基本的にはサブ扱いだったフェンダー(FENDER)社の1974年製ジャズベースを弾かされ、その良さを見直したことで以降はジャズベースが彼のメイン機の座につきました。

 

 

 ベースアンプに関していえば、90年代中盤までリーがステージで使用していたベースアンプはトレース・エリオット(TRACE ELLIOT)社製でした。

 

 

 (リーの使用機と同型 GP12 SMXプリアンプ) 

 

 これは”TEST FOR ECHO”以降になりますが、リーはさらなる音の厚みを目指し、クリーン(歪んでいない、ベースの素の音)とオーバードライブ(歪んだ音)の2系統の音をミックスするという手法をとるようになります。  

 これは従来のベースアンプでは難しい手法なのですが、90年代以降からリーと密接なリレイションをとるようになった録音系機材メーカー、テック21(TECH21)のベース用プリアンプ、RBIにより実現しました。

 この手法だとステージに巨大なベースアンプや専用スピーカーキャビネットを置く必要が無くなります。その空いたスペースにリーが置いたのが、そう、洗濯機や業務用チキンロースター。ライヴ映像でもおなじみの、あの場違いきわまりない「機材」(笑)の設営を実現したのが新導入のサウンドシステムだったのです。

MAYTAG社製全自動洗濯機 音が出ないのにしっかりマイクまで設置するネタっぷり

 

 

 そんなわけで、ボクの耳には、”COUNTERPARTS”を例外として、RTBとそれ以降ではゲディ・リーのベースサウンドが180度変わってしまったように聴こえるのです。

 もちろん、それまであまり用いなかったコードストロークや強烈なプリング(高音弦を引っ張り上げ、指板に叩きつけて鋭い音を出す奏法)などを駆使するようになった2000年代以降のリーのプレイを支えるのがジャズベース&2系統というセッティングなのはよーく分かっているのですが、それでもやはり、”HOLD YOUR FIRE”からRTBまでの、あの丸みをおびながら躍動感のあるベースサウンドが懐かしくなるときがあります。

 

 かといって、それなら自分で揃えたんねん(・∀・)と気負ってみたとしても、トレースエリオットは実は2000年代にはブランドの買収が繰り返されたこともあって生産が安定せず流通量が激減、かつてリハーサルスタジオに当たり前に顔をみせていたあのトレースもそう簡単には手に入らなくなっています。

 ウォル社も創業者ウォーラーが死去してからはほとんど流通しなくなり、もともと流通量の少ないこともあって中古の価格は高騰。会社組織は現在も残っていますが、現在では半ば幻と化しています。

 

 こうして、90年代は急速に過去となりつつあるのでした遠い目

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