サンサンゴってそんなに | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

今回はアナログレコードやCDのレビューをお休みしてエレクトリックギター、ギブソン(GIBSON)社の生み出した傑作のひとつについてクドクドとじっくりと書いてみます。

 

 「サンサンゴ」という呪文のごとき言葉を聞いて、ぜひ皆さまに思い出していただきたいのが、ロック、ブルーズそしてジャズの幾多もの名演を生み出してきたギブソン(GIBSON)社のエレクトリックギター、ES-335です。

 

(最初期型である1958年式ES-335の復刻モデル)

 

 同じギブソンが生み出した名作、レスポール(LesPaul)や、ライヴァルのフェンダー社のストラトキャスター(Stratocaster)に比べるとやや地味な存在に思えるこのES-335、実はエレクトリックギターの歴史を軽く100年は進化させた(`・ω・´)一大傑作なのです。今回はこのES-335の、主に内部構造をご紹介することでエレクトリックギターの知られざる進化発達の歴史に興味を持っていただければと思います。

 

 

 

 

 以前の投稿”ハムバッカーは偉大なり””フライングVはムズイっす”で軽く触れましたが、改めて記しますと;

 1930年代に始祖オーヴィル・H・ギブソンがボストンで開業した頃のギブソン社はヴァイオリンやマンドリンを制作する小さな工房でしたが、1950年代には大手楽器会社のシカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツ(CMI)社に買収され、ミシガン州カラマズーの工場で全米規模の供給を目指す量産体制を整えていました。

 1948年には後に中興の祖と讃えられる名経営者のテッド・マッカーティを迎え、来るべきエレクトリックギターの時代に向けて様々な試みが繰り返されていました。

 

 50年代前半には完全な一枚板をくりぬいてパーツを組み付けるソリッドボディのエレクトリックギターにレスポールの名を与えて商品化したギブソンですが、一方で、伝統的なアコースティック(中空)のボディを備えたギターを選ぶプレイヤーも多いことを把握していました。

 しかし、ラジオからテレビへと電波媒体が進歩し、それまでの小さな会場から大規模ホールでの大音量が現実となっていくギタリストにとって、ハウリングやノイズへの耐性の低いアコースティック形状のギターでは演奏に大きな支障が出てしまうことは明らかでした。

 

 1957年にエンジニアのセス・ラヴァ―が発明したP-490、後にハムバッカーの愛称で呼ばれることになる高出力で低ノイズのピックアップ(ギター内蔵式マイク)がギブソン製品に純正採用されることが決まると、同社はアコースティックのボディの再設計に本腰を入れるようになります。

 

 その結果生み出されたのが、表面積は従来のアコースティックタイプのギターと同様ながら、ボディの厚みを約半分に抑え、なおかつハウリング防止とボディ剛性の強化を目的とする補強材を内部に仕込んだ新開発のボディでした。

 

 

 それまでの、ギブソン社を含む多くのギターカンパニーが製造していたのは

 

(L-5CES)

 

 皆さまのお家にもあるフォークギターやクラシックギターとほぼ同じ厚みのボディを持つ、ピックギターというf字状の音孔があいたギターにピックアップを搭載したギターでした。

 

 ギブソンはそのアコースティックタイプのギターに、ハウリングへの耐性を持たせるべく、ボディの表板を従来の一枚板の削り出しではなく合板の、しかも熱プレスによる成型を用いて造る手法を導入、これは1949年にES-175というモデルの発売へとつながります。

 

 形状やサイズ、特にボディの厚みこそ3 3/8インチという従来のアコースティックを踏襲していましたが、大音量時の空気の振動である音が表板を振動させることで起きるハウリングを、剛性の高い合板を採用することで押さえるという手法を製品に取り入れることに成功しました。

 

 

 ES-335ではこのES-175をふまえ、ボディ構造のさらなる改良を試みました。

 

 まず、ボディの厚みを大胆にも半分まで薄くしたのです。 

 弦振動を増幅するための深いボディと、それにより確保される内部の容量はエレクトリシティ-電気回路による弦振動の検知と電気信号への変換、さらにはアンプ(amplifier、増幅器)による再生が確保されているエレクトリックギターには不要と判断したためではありますが、その数年前にフェンダー社が初の量産型ソリッドボディギター、

 ブロードキャスター(後のテレキャスター)を発表した際に

「カヌーのパドル」「弦を張った便器」┐(´-`)┌

と心無い嘲笑を受けた時代であることを考えると、ギブソンがES-335に採用した構造は実に斬新なものでした。

 

 もうひとつ、ボディ内に補強のための構造を採り入れたことも大きな意味を持ちます。

 通常のアコースティックなボディには見られない、ネックとの継ぎ目付近から底面にかけてブロック状の木材、センターブロックが配されたのです。

 

 といってもヴァイオリン製造から身を起こしたギブソンだけあって、単に四角い木材をデンとボディ内に仕込むような無芸なマネはしません。

ご覧のように、ボディ中央の厚みとほぼ同じ角材を仕込んだ後、表と裏の板を、すのこ状の細い木材を介して接着するという、非常に手の込んだ手法を採用したのです。

しかも表裏とも貼り合わせる板はなだらかな曲面になっており、その裏に貼り付けたすのこ状の木材と、ボディ中央の角材がきっちりとすき間なく接着されるよう細かい調整が必要です。

 

 こうして組み上げられたボディには表面にピックアップやブリッジといったハードウェアが取り付けられるのですが、

このようにピックアップを収めるためのキャビティ(ざぐり)をあけても大丈夫な、高い剛性を獲得したのです。

 さらに言えば

 数年前に開発され、当時のギブソン製品の多くに純正採用された新型ブリッジユニット、チューン・オー・マティック(Tune-O-Matic)ブリッジ、及びその相方である弦固定用パーツ、ストップバー・テイルピース(stopbar tailpiece)を留めつけても問題ない強度も確保できました。

 特にストップバーは大ぶりなアンカーを木部に直に打ち込むため、従来の薄く繊細な表板のギターでは不可能だったのが、ES-335でははれて純正採用されました。

 しかも、表と裏の板は先行機種ES-175に採用され有効性が証明された、アーチ(膨らみ)を熱プレス成型した合板を使用することで剛性が高まり、また手のかかる単板削り出しに比べて生産効率も改善されたことで製造コストの削減が実現しました。

 

 従来のアコースティックにとっての生命線である表板の、弦振動に対しての繊細な反応が生み出す鳴りはもはやES-335には期待できませんが、それと引き替えに高い剛性を備えたボディは大音量時のハウリングにも強いうえに、従来のアコースティックなボディでは得られないようなタイトな反応と豊かなサステイン(持続音、音の伸び)を獲得しました。

 この構造は驚きと称賛をもって市場に受け入れられ、同時に、ボディの剛性と耐ハウリング特性を備えるべくセンターブロックを配した中空ボディのギターをセミアコースティック(semi-acoustic)タイプと区別する流れを作りました。

 なお、センターブロック無しの、従来からの中空ボディを持ったギターはフルアコースティック(full acoustic)と呼ばれるようになりました。

 

 

 …ここで、誤解されやすいので改めて記しておきますが;

 従来のフルアコースティックの多数が3 3/8インチ厚なのに対しES-335は1 3/4インチとほぼ半分です。

 ですがセミアコースティックというのはあくまでセンターブロックを配したボディの内部構造の有無による区別であり、ボディ厚は判断基準ではありません(`・ω・´)

 

 というのも、当のギブソンがES-335と同じボディ厚ながらセンターブロック無しの、つまり薄型のフルアコースティック・エレクトリックギターを、しかもES-335と同じ1958年に発売しているからです。

それがこのES-330。歴史的名作ぞろいのギブソンギターの中ではやや影の薄い感がありますが、後にこのギターの構造をそのまま用いた

斉藤和義氏のシグニチュア(本人仕様)モデル、KS-330がリリースされたことでご記憶の方もいらっしゃるのでは。

 

 また、ES-330は同時期にミシガン州カラマズーのギブソン工場で生産されていたエピフォンのラインアップにも加えられ、ヘッドの形状などに若干のアレンジを加えられたうえで販売されました。それが

E-230TD、そう、ご存じカジノ(Casino)です。

 

 カジノは兄貴分ES-330をさしおいて(^_^;)ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニーが相ついで手にしたことで人気モデルとなり、ES-330が生産終了した後も生産が続く不動の定番となりました。

 

 

 

 

 ES-335を筆頭とするセミアコースティック・エレクトリックギターはギブソンの主力商品となり、60年代中期ごろにはかなりの利益を同社にもたらしました。

 すると、その勢いをみて焦ったフェンダー社は、アイデンティティでもあるソリッドボディギターに、中空部を設けたボディを持つバリエーションモデルの開発を進めます。結果として出来上がったのが

(画像は現行モデル)

 テレキャスター・シンライン(Thinline)でした。既発モデルのテレキャスターのボディサイズはそのまま、ボディ内をくり抜いた後に裏側から板を貼り付けるという手法で実現したこのシンラインですが、フルアコースティックを連想させるES-335のような音の深みやツヤといった特性を獲得できるには至らず、軽量化されたテレキャスターというポジションにとどまりました。

 もっともこの、ソリッドボディの内部をくり抜いて軽量化する手法は後の2000年代のギブソンが、主にレスポールを中心に採り入れることになります

 

 また、セミアコースティック人気に危機感を、いや、追い詰められたフェンダーはそれまでのソリッドボディ一本槍の方針を改め、ES-335を意識したモデルの投入という手に出ます。

 

(画像は後年の再発モデル)

それがこのスターキャスター(Starcaster)。木部加工の技術の蓄積のあまり無いフェンダー社にとっては手のかかりすぎるわりに売れ行きが良くなかったせいか、それほど流通する間もなく生産が終了してしまいました。

 

 他にもグレッチ(GRETSCH)社も70年代に入る頃からセミアコースティック構造を採り入れたモデルを市場に投入しましたが、やはり加工のノウハウが足りなかったのか少数の生産で終わったようです。 

 

 

 

 

 ES-335の1958年の発売当初から、外装や付加機能をアップグレードされた、ES-345ES-355といった兄弟機種が同時に発売されました。

 以来、バリエーションモデルを増やしながら現在に至るまでES-335は製造が続いています。中にはフルコースティック構造、しかもオーセンティックな3 3/8インチ厚ながら形状はES-335に倣ったという、進化なのか退化なのか分からない(・_・;)モデルまで、ES-150Dの名を与えられて世に出ています。

 

 

 また、センターブロックという補強材を仕込む手法は多くのギターカンパニーが模倣し、セミアコースティックというひとつのカテゴリを形成するまでになっています。

 …ですが、ボクの個人的な意見を書かせていただくと、やはりギブソン製のES系ギターと他社製品では、ダイナミズムや音の太さ(聴感上のラウドさと存在感)、音のツヤや柔らかさといった要素において、どうしてもギブソン製品に追いつけていないように感じられるのです。

 もしボクのこんな投稿でも参考にして、ここらでいっちょセミアコースティックを、箱モノを探してみようか、という方がいらっしゃいましたら、どんなに面倒くさくてもいちどギブソンのES-335を実際に手にして弾いてみることをおすすめします。アジア工場製や日本製の、宣伝やレビューばかりが先行するギター達では鳴らせない音があることに気づかれたのであれば、高額であってもギブソン製品を選ばれることをおすすめしておきます。

 

 

 

 

 50年代終わり頃に世に出たES-335及び同系統のセミアコースティック・エレクトリックギターは、大音量化するロック/ブルーズ/ジャズシーンにおいてもその潜在能力を発揮して多くのギタリストの演奏に応えたことで高い人気を獲得しました。

 

 そのなかでも、やはりこの人、

ラリー・カールトンの名を挙げないわけにはいきませんね。Mr.335の異名をとる彼の、絶妙なトーンコントロールが生み出すサウンドに魅了された方は多いと思います。

 そのカールトンと並んで

リー・リトナーもまたES-335を愛用しており、ノーブルでツヤのあるトーンもまた多くのフォロワーを生みました。

 

 セミアコ―スティックはソリッドボディギターに比べ高音や低音の反応がやや弱いこともあり、コード(和音)のカッティングとよばれるリズミカルな奏法に用いるギタリストは少数なのですが、なぜか

アル・マッケイはES-335によるカッティングを多用、現在では彼のシグニチュアトーンとなっています。

 

 さらに、これは兄弟機種になりますが、

1963年製といわれるES-175を多用するスティーヴ・ハウは同時に多くのセミアコースティックを使用、この画像で彼が手にしているESアーティストは2000年代の再結成エイジアにおけるメインギターを務めるという栄誉に浴しています。

 

 また、1976年にアルバム”2112”でブレイクしたラッシュ(RUSH)のアレックス・ライフソンは同年に白のES-355を入手しました。

 

 彼はこのギターを後も大切に使い続け、2002年のアルバム”VAPOR TRAILS”リリースに伴うツアーではステージでの使用機材として復活させています。

 

 

 

 

 

 ES-335が世に出てから半世紀以上が経ち、その間にソリッドボディギターは世界中の工場で生産され、多くのプレイヤーが気軽に手にする存在となりました。

 

 エレクトリックギターを製造する素材も、過去には鉄やアルミニウム、カーボングラファイトが試みられましたが、それらを用いた製品はあくまでソリッドボディの構造を応用しており、言い方を変えればソリッドボディのギターの、木材を他の素材に置き換えただけのものが多く見られます。

 

 一見すると、フルアコースティックの外見やサウンドの傾向をそのまま引き継ぎながら量産に適した仕様に切り替えていっただけに思えるES-335ですが、実際にはギブソンの木部加工の高い技術と、なにより木部が生み出すギターのトーンを熟知する卓越したクラフトマンシップが組み合わさらなければ生まれなかったギターです。そのことを実感するのはそう難しいことではありません、お近くの楽器店へ足を運び、限定品や希少なヴィンテージギターでもない、ごく普通の量産モデルである現行のギブソン製品を試しに弾いてみていただくだけで可能です。

 

 

 最後に蛇足ですが、もしも本気でお探しなのであれば普段お使いのエフェクトペダルの、せめて歪み系だけで持参すること、できればあわせてご自身のギターケーブルも一緒に持ち込み、マーシャルでもフェンダーでもメサ/ブギーでもいいのでとにかく真空管アンプにつないで鳴らすことをおすすめしておきます。

鉛筆