アナログレコード聴き比べ ”SOMETHIN' ELSE”編 | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
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お待たせしました、自腹の痛みがこたえる(;´∀`)人気シリーズ、アナログレコード聴き比べ。今回はジャズ史に残る傑作とも呼び声の高い”キャノンボール”・アダレイ(”Cannonball” Adderley)”SOMETHIN' ELSE”です。

 

 

 実はまだ記事にしていなかったのですが、この”SOMETHIN' ELSE”、2年近く前に入手していたのです。

 それがこちら。

レコード番号:BN-LA169-F-0598(Blue Note) 1973年(US盤)

 

 ええ、はい、もちろん皆さまの

なんやこのジャケ(・_・;)

 

という声が聞こえておりますよ。

 

 何の解説や予備知識もなければボクもまず手を出さなかったであろうこのダサすぎるジャケットのUS盤ですが、これを勧められたのは大阪市内の個人経営の小さな中古レコード店でした。

 たしかもう少し後の年代のモノラル盤と同時に聴かせてもらい、音の生々しさが感じられた、ように思えたのでこのダサ盤←コラ(`Д´) を選びました。たしか1500円を切るぐらいだったように記憶しています。

ジャケット裏もごく短い解説とアルバムクレジットだけ。

あ、でもマイルズ・デイヴィスがCBS所属であることを示す一文がこちらに。

販売不適合品を意味するジャケットの切り欠きがこちらに。たしかに目視でも分かるキズがあちこちにあり、決して良好な状態ではありません。

 もちろんUS盤なので帯・解説なし。プレミア感がここまで感じられない盤も少ないのでは…

 

 

 

 それから時は流れ、つい先日に現在の埼玉県の北の端のリサイクルショップで見つけたのがこちら。

レコード番号:BST 81595(Blue Note) 1966~1972年(US盤)

 

 シュリンク残りで反射がきついのでやむなくこのような暗めの画像になってしまいますが、それでも、皆さまおなじみのあのデザインのジャケットであることはお分かりいただけると思います。

当時のレコード会社は直輸入盤のシュリンクの上にこのようなシールを貼って販売するという手法をとっていたのですね。後追い世代としてはちょっと想像がつきませんが…

隅にはマイルズがCBS所属であることを示す一文が

ジャケット裏。昔のジャズのレコードの雰囲気が伝わってきます。

リード・マイルズフランシス・ウルフルディ・ヴァン・ゲルダー。うん、これでこそブルーノートのアルバムですね。

よく見ると

マイルズがCBS所属以下略 そこまでCBSに気を使わなければならなかったのか、マイルズがうるさかったのか…

 

「あ゛?」

いえ、何でもありません(-_-;)

 

 

 

 

 リサイクルショップで入手したおなじみのクールなジャケットデザインのほうの盤を取り出し、B面をプレイヤーのターンテーブルに載せます。

 流れてきたタイトルトラック”Somethin' Else”の、ドあたまから飛び交うマイルズとキャノンボールの応答式テーマを聴いてまず思ったのが、

音がカタい(・。・;

ことでした。

 これはジャズの、特に管楽器のソロイストの音を聴いていると実感するのですが、音質がイマイチな盤やデジタルリマスターされていないCDでは音の伸びやうねり、強弱の差が聴きとりづらく、妙に冷たく感じられるのです。

 このクール盤(?)はステレオミックスされていることもあって、シンバルやスネアドラムの高音の響きや繊細なタッチが他の楽器に埋もれてしまわずに聴きとれるのですが、肝心の管楽器の音がどうも、加工されすぎて表情を失っています。

 それと、各楽器の音の分離といいましょうか、ベースやビアノの重なる音域もちゃんと輪郭を失わずに聴きとれるのはいいのですが、管楽器の二人の音が響き合う際のダイナミズムが失われているように感じられます。 

 そのせいでしょうか、”Somethin' Else”の最後の応答式テーマでは一本しかないマイクの前でマイルズとキャノンボールがワンフレーズごとに交代しているかのように聴こえてしまいます。かの巨漢キャノンボールがマイルズ「パイセン」に、

すんません、すんません(;´Д`)

などと頭をさげながらマイクの前にやってくる姿を想像すると思わず笑いが…

 

 

 次に、ダサ盤ヾ(- -;)やめんかいを、同じくB面から。

 先にこちらを何度も聴いていて慣れているのもありますが、それを差し引いても、音の分厚さには歴然とした差を感じてしまいます。

 トランペットやアルトサックスといった管楽器でも、実際に生の音を聴いてみると思った以上に低音が出ているものですが、この盤だとそれがしっかり録られており、スピーカーからちゃんと出力されています。

 マイルズ、キャノンボールともにソロの伸びやかで放埓なフレージングが見事で、特にオーディオ機器を調整しなくてもスーっと耳に届いてきます。嫌な音の割れ方も無く、そのギリギリ手前までラウドに鳴るようなバランスは、かつて持っていた未デジタルリマスターのCDでも実現できていなかったように思います。

 

 改めてこの盤をA面から聴きなおします。

 皆さまご存じの名演”Atumn Leaves”の、マイルズのメインテーマの裏で鳴らされるシンバルとブラッシュの繊細で秘めやかな響き、R・V・ゲルダーの手による「あの」ピアノサウンド、キャノンボールのブルージーながら軽快なフレージング、それらが寄せては返す波のようにスピーカーから流れてくるのが、もうただただ心地よく、手を止めて聴き入ってしまいます。

 これがクール盤だと、スピーカーの前にアクリル板の仕切りを立てたかのような平板でのっぺりとした響きに終始します。聴きようによっては分離がよくシャープでクリアな音ともいえるのですが、50年代のジャズ、ブルーノートをそのような音で聴きたいかと問われれば、なんともビミョーな気がします。

 

 同じブルーノートで再発の時期もそれほど変わらないこのふたつの盤の違いについて、可能性として挙げられるのがBN-LA169-F-0598に

Technician [Album Prepared For Reissue]

としてクレジットされているDaniel Bourgoiseです。

 略歴によればかつてデル・シャノンのプロデュースや作曲を担当し、後にUnited Artists Recordsでリイシュー(再編集)のプロデューサーの任についたとあります。アルバムクレジットで確認するかぎり1973年当時のブルーノートのカタログはUnited Artists Recordsが管理していたようですから、それまで流通させていた盤とは異なるマスターテープを発掘し、最良の音質で再編集してくれたのかもしれません。

 そうだとしたらホントにありがたいかぎりですが、だからといってジャケットデザインまでウググ

 

 

 

 

 この”SOMETHIN' ELSE”の誕生にまつわる、アルフレッド・ライオン(ブルーノート創始者)とマイルズの友情物語については広く知られていますので、今回は触れずにおきます。

 

 今回の投稿にあたってこのアルバムのバージョンをデータベースで調べてみましたが、その数なんと148。あけすけに言ってしまえば、1958年のリリース以来レコード会社は手を変え品を変えこのアルバムを再発しゼニを儲けてきたわけです。

 

 しかし、それは当然このアルバムの恐るべきセールスパワーが健在であることをも意味します。

 もちろん、180グラム重量盤のLP(2011年に発売されたそうです)を買い求めるレコードマニアもいれば、いや、2002年に買ったデジタルリマスターのCDでじゅうぶん、という現実派もいますが、その気になって少し探してみればこのアルバムの、自分にとって最も使い勝手の良いフォーマットで最良の音が求められるという、考えようによってはとんでもない贅沢が出来るところに、このアルバム”SOMETHIN' ELSE”の歴史の重みが隠されているのではないでしょうか。

 

 

…ジャケットのバリエーションも含めて、ですけど(;^ω^)

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