GOING FOR THE ONE | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:P-10304A(Atlantic) 1977年(国内盤)

 

 

 アナログレコードだけでなく中古品の市場というものは需要と供給のバランスで成り立っています。

 新品の時に売れまくったアルバムは中古市場にも多く流通するので探しやすくなります。

 

 それを痛感させてくれるのがこのイエス(YES)の”GOING FOR THE ONE”。もーあちこちの店で当たり前のように見つかります。

 この一枚を手に入れたのがいつ、どこだったかが思い出せないのですが、たしか日本橋の中古レコード店だったように記憶しています。いい買い物で満足できた日の最後に立ち寄った店で、安かったので購入を決めたという「ついで買い」だったような気がします。

 

 

ジャケット裏。

ハイこのとおり、贅沢にも3面折りでございます。

ジャケット内側。表の高層ビル群との対比を狙ったのか、湖と木の写真が。しかし、どうも味気ない…

日本語ライナー。

裏面には解説が。よく見ると

こんな表記が。遊び心(*´∀`)

内側には原詞&クレジット。

当然のごとくピクチャーレーベルです。

 

 

 やはり、このアルバムにおけるキーパーソンはキーボードのリック・ウェイクマンでしょうか。

 1974年のアルバム”TALES FROM TOPOGRAPHIC OCEAN”の製作を巡って他メンバーと意見が対立したことがきっかけとなって脱退した彼がイエスに「復帰」したことで輝ける最強メンバーでのイエスが復活‐というようにファンはとらえていたようです。

 

 あまり知られていませんが、現在はともかく当時の音楽業界ではバンドだけでなく脱退した元メンバーも同じマネジメントに所属するというケースが多かったそうです。

 イエスもまた、バンドとその元メンバーウェイクマンの両方を敏腕マネジャーのブライアン・レーンがマネジメントしていたこともあり、離れていったウェイクマンをイエスに引き合わせたのはレーンでした。

 

 後にウェイクマンが明かしたエピソードにこんなものが。

 当初はセッションミュージシャンとしてイエスのレコーディングの「お手伝い」を乞われたウェイクマンがバンドになじんでいくのを見計らったレーンがイエスへの再加入を提案し、ウェイクマンが「悪くないな」と承諾したことで再加入が実現します。

 そのすぐ後に手にした新聞に『リック・ウェイクマン、イエスに加入』の見出しを見つけたウェイクマンは気を良くしますが、よく見るとその新聞の日付は前日

 

ウェイクマン:おいブライアン、これって…

レーン:経験による推量(educated guess)だ。  ※educated guessは「当てずっぽう」の意味合いが強いはず

W:もし俺が(再加入を)断ったらどうするつもりだったんだ(・.・;)

L:そういったことに対処するのはマネジメントの仕事さ。

 

 

 こうして無事に(^^;)イエスに復帰したウェイクマンですが、やはりその功績は大というべきでしょう。

 中退したとはいえ王立音楽アカデミーで高度な専門教育を受けたバックグラウンドのある彼はイエスの演奏面の「荒さ」を取り除き、綿密でありながら聴きやすく印象に残るアンサンブルの構築に大きく貢献しています。

 前任のパトリック・モラーツが根っからのジャズ派で、自己表現としてのインプロヴィゼイションに傾倒したせいで他メンバーとの軋轢を生んだそうですから、元さやにおさまるかたちになったとはいえウェイクマンの再加入はイエスにとって大きな安心材料となったのでしょう。

 

 「オールタイム・ベスト」、今でも好きな曲を尋ねる90年代のインタビューで、ジョン・アンダーソンはこのアルバムの最後に置かれた”Awaken”を挙げています。澄み切った音像、ダイナミックな演奏、そして宗教的ですらある感動のフィナーレ。アンダーソンの理想とするイエスが体現出来た、珠玉にして至福の一曲なのでしょう。

 

 一方で、レコードデビュー10周年を迎えようとするロックバンド、しかも表現主義としての「プログレッシヴ」勢の一角を占めていたイエスもまた時代の曲がり角に立っていたことを実感させられるアルバムでもあります。

 

 まず、ジャケットデザイン。”FRAGILE”でタッグを組んだロジャー・ディーンにかわり、ピンク・フロイドとの仕事で知られるヒプノシスが担当しています。

 ロスアンジェルスに実在する高層ビルをモチーフにしたジャケット表のデザインは秀逸だと思うのですが、中身の音楽と呼応しないことに違和感を覚えたファンは多かったのではないでしょうか。

 ファンタジックな画風でリスナーの想像力を刺激し続けたディーンとは正反対のシュールなヒプノシスの作風はどうも、イエスの楽曲には不似合いな気がします。

 

 また、1975年頃からはロンドン・パンク勢の台頭が話題になり、彼らの先鋭的な批判はイエスにも向けられていたとききます。

 そんな時代にまるで背を向けるようにスイスでのレコーディングを敢行、教会のパイプオルガンをフィーチュアした大仰な楽曲を盛り込んだアルバムをリリースしたわけです。

 イエスはイエスの道を行く、という意思の現れとも解釈できますが、ではなぜジャケットをヒプノシスに任せたのかが、ボクにはちょっと理解できないんです…

 

 もっとも、この時代との乖離がより鮮明になるのは次作”TORMATO”であり、この”GOING FOR THE ONE”はその少し手前の段階‐スタープレイヤーのウェイクマンが再加入して壮麗かつダイナミックな作風が復活、驚喜ウワーイ(/・ω・)/したファンの支持も集まり、結果としてUKのアルバムチャートで首位を獲得するヒットとなりました。

 

 イエスはホントに波乱万丈な歴史のあるバンドですが、それを彩るのはこの”GOING FOR THE ONE”のような傑作であり、同時に、内情はどうであれこれほどの力作をコンスタントに残してきたことがイエスを、他の凡百のロックバンドと分ける最大の要素ではないでしょうか。

 

 

 

 

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