MOVING PICTURES | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:25-3P-261(Epic) 1980年(国内盤)

 

 このアルバムはまずジャケット。ジャケ買いする価値100%の傑作なんです。

 このアナログLPはたしか日本橋の中古レコード店で入手したように記憶しています。現在手元にあるレコードの中で最も早くに手に入れたもののひとつです。

 まだレコードプレイヤーを持っていなかった頃でしたから、このLPのジャケットを眺めながらCDを聴いていました(苦笑)。

 

 

 せっかくサイズの大きい、しかも紙製で照明が反射しにくいLPがありますので、このジャケットの写真についてのトリビアをひとつ…

 

 まずジャケット表、美術館と思しき建物から絵画を運び出す男達がいますね。

これが「絵画の移動」(moving picutures)を意味します。

 

次に、その絵画を目にして涙を浮かべる女性が。

これが「感動的な絵画」(moving picutres)を表現しています。

 

そしてジャケット裏。

 

これをよく見ると

映画(moving picture)の撮影風景なんです。

 

 この、ユーモアを交えた二重三重の暗喩、ダブルミーニングやトリプルミーニングが至るところに仕掛けられたラッシュの世界にリスナーは足を踏み入れるのです。

 

 

 1970年代のヨーロッパで起きた表現至上主義の「プログレッシヴ」ムーヴメントの洗礼を受けたラッシュですが、”HEMISPHERES"(神々の戦い)をリリースする頃には重厚長大な楽曲の製作がメンバーの心身だけでなくレコーディングの経費にも大きな負担となってしまいます。

 また、70年代後半のパンクの台頭がきっかけとなったニューウェイヴはラッシュのメンバーにも影響を与え、アルバム”PERMANENT WAVES"からはコンパクトでタイトな楽曲へのシフトを図ります。

 

 ラッシュは作風というか音楽性というか、とにかく変遷が大きいため各時期ごとのファンというか、このアルバムまでは好きだけどそれ以降はついていけない、聴いていないというリスナーが多いように思います。

 

 ただ、マニアの皆様からのお叱りを覚悟で申しますと、”PERMANENT WAVES"で挑戦し、”MOVING PICTURES"で商業的にも成功したこの「モダン・ミュージック」路線への移行がなければ、ラッシュはきっとバ〇ン誌の熱心な読者でもないかぎり知らないようなカナダのいちローカルバンドのままだったはずです。もちろん、活動を継続できていたかどうかもわかりません。

 

 

 ラッシュの最初にして現時点での最後の日本公演は1984年。既に33年の月日が経っています。

 その間にラッシュはさらにビッグになり、あのグランジの嵐が吹き荒れていた1993年にリリースしたアルバム”COUNTERPARTS"は、レコードデビュー20年のヴェテランバンドとしては異例ともいえるビルボード4位を記録する大ヒットを記録します。

 2013年にはロックの殿堂入りを果たし、現在でも海外のロック専門ラジオではこの”MOVING PICTURES"のオープニングトラック”Tom Sawyer"が流れるぐらい、ラッシュは親しまれています。

 

 もしラッシュというバンドに興味があり、でもどれから聴いたらいいか分からないという方がいらっしゃったら、まずMOVING PICTURES" からはじめてみてはいかがでしょうか。リリースされて30年以上経ちましたが、このアルバムを聴くことは目の前に現れたドアを開けるのと似た経験になるはずですよ。

 

 

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