~黄金の塔~
~黄金の塔~
黄金の塔。
惑星レイの、観光メッカとして名高い塔である。黄金、といっても、壁が金箔で覆われているわけではない。金箔で覆われているのは黄金の塔の内装である。
惑星レイは、有名な金の産出地があり、星系の90%の産出量と加工量を誇っている。
この黄金の塔だが、好色で名高かったポマノフ10世の時に建てられた異色の建築物として名高い。愛妾イザベラは、貴族ジムライ7世の妻であったのを、大王に見初められて、愛妾として宮廷に呼ばれた。仲睦まじい夫婦で有名であっただけに、なかなか大王に打ち解けなかったイザベラであったが、その金の滴が滴るような肌と髪の毛から、「金夫人」という呼び名を許されるほど、大王に溺愛されていた。
イザベラは、ジムライ7世のことが忘れられず、長いこと不貞を働いていたため、ジムライ7世は打ち首、夫人はこの黄金の塔に閉じ込められ、大王以外との人間の接触を断たれた。若き40歳で、亡くなり、夫人の悲話は今でも語り継がれている。
現在、その塔にメーギルとポマノフ大王の従姉妹に当たる、メーギルの母親、第三夫人がここに閉じ込められ、外部との接触を断たれていた。ロームキンの命令というよりは、第二夫人の陰謀であることに間違いはない。
先刻暗殺された大王も、愛する第三夫人の安否を気遣って、かえってこの方が第二夫人との諍いから隔離できるであろうと考え、彼らをこちらに移動させたのだ。
ところで、黄金の塔に、ロームキン、ジル達が大急ぎで向かっているわけだが、予想とは裏腹にこの黄金の塔に足を踏み入れたのは、第三夫人が呼び寄せた、あの医者。読者もよく覚えておられると思うが、ガルバンゾーである。
「ガルバンゾー。よくここまで足を運んでくださって。」
夫人が優しくガルバンゾーの体を抱きとめた。普段ならこういう情熱的な挨拶は断るガルバンゾーだったが、この夫人だけは、特別な情愛を持って接してしまう自分を、仕方なく許していた。
「自分の患者だからな。経過も気になる。」
ガルバンゾーは荷物を置くと、洒落たダッフルコートを脱いで召使たちに渡した。相変わらず小柄であるがそのエネルギッシュで漲るパワーは、周囲のものを圧倒させる。
「メーギル、どうだい?」
薄く上等で柔らかなシルクシフォンのカーテンをガルバンゾーが開くと、上半身を起こして微笑むメーギルと目があった。
「調子はよさそうだな。」
「おかげさまで、先生。」
「歩いてみろよ」
ガルバンゾーが床に手を引っ張り、細くなったメーギルの足をしっかりと地面に押さえつけると、ゆっくりとメーギルが歩行を始めた。ガルバンゾーはその後ろに回って歩く姿を観察している。
「大丈夫だ。一番心配していたのは、記憶と、平衡感覚だ。まっすぐに歩いている。昔なおした患者で、天井と地面がどっちかわからないといわれたことがあって苦労したからな。」
「ありがとう・・ガルバンゾー。」
涙を流す夫人に召使が近よって美しい刺繍の白いハンカチを渡す。
「リハビリだけ怠るなよ。」
「わかりました。先生。僕、ところで全然記憶がないけれど、ジル達はあれからどうしたんですか?」
「さあ。とにかく、お前の命を救ったのはあの、ゴルドンとかいう面白い小僧だそうだ。あいつに会ったら礼を言えよ。」
「そうだ、ゴルドンだ。思い出した・・・。面白い小僧・・・そうだ!ゴルドンは、面白いというかとても強くてたくましくて、賢くて、優しい男だ。僕と大違いだ。同じ王子として・・」
「あいつは、これからどうするんだか、気の毒な奴だな。」
ガルバンゾーがメーギルの背中をポンと叩いて夫人にいくつか薬を渡すと、メーギルをベッドに横にさせて、治療ライトをセットした。
「しかし、この金ぴかの部屋になんだってほおりこまれたんだ?あんたもあんただ。いつまでたってもあんな下品な愛妾のいうことを、頭を下げて聞いて。一度びしっといってやらないと、手が付けられなくなるぞ。」
ガルバンゾーが豪奢なロッキングチェアーに揺られると、美しいメロディーが流れた。葉巻を口にくわえると、気の利きそうなかわいらしい召使が火を運んできた。
豪華な部屋である。金の刺繍で装飾された壁のテキスタイルは虹色に光り輝いている。飾られた額には、イザベラ夫人の見事な肖像画と、ポマノフ10世の肖像画が並んでかけられ、イザベラが罰せられて閉じ込められたというよりは、大王の幼稚な嫉妬心でこの窮屈で豪華な場所に閉じ込めたというのが真実であることを推し量ることができた。
「ガルバンゾー。ひと段落したら、私達、星外に引っ越そうかと思っています。あなたにいい場所をアドバイスいただきたくて。」
「なんだ…逃げるつもりか?戦わなきゃ。あんな女の息子にこの国の跡取りを任せてはならん。ピョートルといえば、字もろくに読めず、問題ばかり起こすらしく、夫人も手を妬いて惑星ウィットに留学という名のもとに追い出したそうじゃないか?」
「ガルバンゾー・・・ここの会話は多分すべて王宮に筒抜けなのよ。」
「知った上でのことさ。本人がきいてりゃ、余計いい薬になるだろうよ。毒でも盛るなら、俺がいくらでも調合してやるぜ。」
ガルバンゾーのパンチの利いた冗談に夫人は静かに笑った。が、彼女の胸にもやもやと湧き上がる暗い影はいつまで経っても消えることは無く、再び曇る夫人の憂鬱な瞳を、どうしようもない気持ちでガルバンゾーは柔らかな煙越しに見つめていた。
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