どこをどう車を走らせたのか、ひたすらバックミラーを気にしながら、気がつくと小さなカフェの駐車場に車を停めて、ガクガク震える手で涙を拭っていた。


そこから、事情を知る古い友達に電話をかけて、泣きながら言った。


「逃げた」「犬を置いてきてしまった。どうしよう?」


友達は、「ついにか。一緒に考えよう」と言ってくれた。


その日のうちに、友達の車で警察に相談に行き、警察の保護のもと、愛犬を連れ戻しに家に帰った。


「もう帰れないからね。必要な物だけを今、持って来るように」


警察の方々が、夫の視界を遮ってくれる間、私は狂ったように愛犬を抱き抱え、再び家を後にした。


もう戻らない覚悟で。


暴力、暴言、監視、威嚇。


私は夫の家政婦であり、ATMであり、憂さ晴らしの精神的サンドバッグだった。


仕事を守るために、安定剤を服用しながらも働き、耐え続けた20年。


それでも、もう精神が崩壊寸前だった。


その夜は、なるべく遠くまで車を走らせ、愛犬と車中泊をした。


翌日の朝、環境の変化に戸惑っていた愛犬が、お気に入りのオモチャで遊び始めた時、初めて少しホッとできた。



どんなに辛い時でも、一杯のコーヒーがあれば、その日の一日は始まる。それが、一番大切なことだから。