記事はかなりの長文ですが、 要は、イギリス最大手のスーパーTesco(テスコ)が政府と手を組んで、ほとんどただで労働力を手に入れようとしたところ、国民からは「奴隷労働だ!」などと猛反発を受けて、テスコ側は「いや、そんなつもりはなかった」と弁明している、ということです。(テスコは抗議活動を受けて、その求人は取りやめています。)

 (ちなみにテスコの創業者はユダヤ系の人だそうで、消費者の私が見ても、あきらかに利益優先でクォリティは他の同業者Sainsbury’sなどと比べてもう一つです。大規模なビジネスの強みを全面に活かした圧倒的な競争力とブランド・イメージだけで成り立っているお店です。)

 確かに、イギリスには慢性的に失業保険を受けている人が非常に多く、その一部の人は労働可能な状態であるのに失業中なら様々な手当てをもらえるために働いていない、といった印象を受けます。

 ですので、厳しい財源の確保のために生活保護への支出を削りたいという政府の考えは理解できることではできます。しかし最大手のスーパーや下記の大手チェーン店らもこのようなスキームに参加してしまうと、結局、雇用案件自体がかなり減ってしまいますので、失業率の改善にはつながらないどころか悪化させてしまうのではないでしょうか。

 しかも深夜勤務は普通は給料も昼間よりもずっとよいです。政府と企業のどちらが失業保険の支払いを行うのかはわかりませんが、交通費を合わせても週1万円以下の失業保険で働かされるなんて、職業訓練などの前向きな点を考えあわせても、やはり「奴隷労働」のようです。

 特に大企業化がものすごく進んでいるイギリスでは、ほとんどのお店が全国規模のチェーン店で、下に挙げられている小売店だけでもかなりの雇用数になります。このスキームで「恩恵」を受けることのできる大手チェーン店がさらに経済的に優位になり、ただでさえ少ない個人商店はさらに減ってしまうでしょう。


つまり、イギリスでもさらに、

「貧困 もっともパワフルな人達でさえ、貧困の脅威は免れない」となるかもしれないということです。


 計画の方向性自体は必要なものだとは思いますが、やっぱり今の現政権は「そしたらどうなる?」というところに考えがどうも及ばないようで・・。知っててこんな計画立てたのだったら、我慢強いイギリスの一部の人達も、そろそろぶち切れる頃でしょう。

 普段は温厚なイギリス人が、切れたらすごいのは何度も目にしています。去年の暴動も全国に広がってすごかったです。

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2月17日【Mail Online】http://www.dailymail.co.uk/news/article-2102228/Tesco-row-unpaid-nightshift-jobs-expenses-plus-Jobseekers-Allowance.html

「小さなことからお役に立ちます!(訳注Every little helps!/ Tescoのキャッチフレーズ)」
テスコの夜間シフト勤務の求人
給与:「交通費+失業保険手当」


・Tesco 側はこの重大ミスは「ITの技術的エラーだった」と反論
・人の弱みにつけこんで現金を得ようとしていると、活動家はテスコを非難
・この政府計画の下では、長期間、病気や障害で生活保護を受けている人達も無償で働かされることになりうる。


テスコ社は、昨日、無償で深夜シフト従業員の求人広告を掲載し、失業者から搾取しようとしたとして非難を受けた。

ネット上で掲載されたその求人広告は、「常勤」としてのポジションで、採用者には「交通費+失業保険」が支払われるという。

この求人は、政府による「勤労福祉スキーム(workfare scheme)」をテスコが利用した結果行われたもので、同様のポジションは何百も存在している。

テスコは昨夜、国内のツイッターやFacebookユーザーからの激しい反発があったこの求人広告は「手違い」でジョブセンター・プラスに掲載されたと発表している。

この勤労福祉スキームは、長期間に渡り失業している者に対し、仕事や仕事を経験する機会のオファーがあった場合にはその職を受け入れる約束をさせ、雇用者に対してはインセンティブを金銭で提供し、これにより失業問題に取り組もうというもの。

しかし、活動家らは、国内の失業率が上昇する中、テスコが「人の不幸につけこんで利益を上げようとしている」と非難。運動団体Right to Workのサム・ジェームスは、「これは金持ちの欲によって作り出された経済的危機のために、労働者階級が負担を強要されている実例の一部にすぎません」という。

その一方、雇用年金局(Department for Work and Pensions・DWP)が作成したこのスキームの下では、長期間病気や障害を理由に失業している国民の30万人近くが強制的に無償で働かされてしまう可能性があるという問題が持ち上がっている。

しかし、ガーディアン紙の報道によると、チャリティー団体や精神障害の専門家などは、ごく限られた量の仕事であったとしてもそれが有害になる失業者もいる、というこの計画に対する反論がなされているという。

労働組合がこの給料を支払わない労働者の利用は「不当である」と決めつけた後に、このスキームから撤退したSainsbury’sやWaterstoneなどの大手チェーン店も複数ある。

イギリスの労働組合GMBは、「雇用と非雇用の違いを維持することは、絶対に必要なことです。雇用者がある業務の遂行を必要としている場合に、その仕事をして給料をもらう、というのが『雇用』というものです。そのような業務を遂行するために失業中の人を利用し、何も支払わないというシステムを正当化できるような理由は、絶対にありえません

この給料の発生しない仕事をした場合、仕事に志願した人には、失業手当の標準金額、25歳以下で週£53.45、それ以上の人には£67.50が支払われる。仕事をすることを拒否した場合、その人に対する手当の支払が停止される恐れがある。

雇用担当大臣のクリス・グレイリンは、この復職スキームによって、英政府の生活保護の支出を1兆ポンド削減できると考えている。

テスコは、正規雇用従業員の代わりとして無償の労働者を利用しようとはしていなかった、と断言している。

テスコ「この求人広告が掲載されたのはジョブセンター・プラスによるITの技術的手違いで、すでに修正されています。正しくは、政府主導の職業体験スキームの一部として、職業体験を提供する広告であり、期間の終了後には就職の面接が約束されています」

テスコ側は、職業体験スキームとの関連性を弁護し、これまでのところ職業あっせんの後に正式採用された若者は300人に上るといい、「例外なく、テスコの従業員の基本給は、一般的に他のスーパーマーケットよりも高いものになっています」と付け加えた。

大手全国チェーン店の労働者40万人以上を代表する労働組合Usdawは、問題となっているスキームに参加するかどうかは各チェーン店と協議中であったという。また、職業体験は役に立つかもしれないが、正当な給与が伴うべきであるともいう。

. 雇用担当大臣のクリス・グレイリングは、下院でこのスキームは順調に機能していると話した。
生活保護改革法案の修正案が国会で審議された後、雇用年金局による病人や障碍者に対する提案書が発表された。

余命6か月の癌の末期患者や、事故の被害者、心臓発作や脳卒中を起こした患者、一部の精神病を患う患者なども、この計画により仕事を強制される可能性がある。

このような失業手当の受給者は、障害等の程度が比較的低い「就労関連活動グループ(WARG、work-related activity group)とみなされており、統計によるとこのグループには30万人以上がいるといわれている。

また、12月の会合の際の議事録によると、かかる仕事への配属には期限がないものとされている。現在のところ、政府の職業体験スキームにより、身体に障害のない求職者には8週間、または先駆けとなるコミュニティー活動プログラムについては6か月の制限がある。

そして、求職者がそのプログラムに参加しない場合は、「自らの責任に応じる人に対するインセンティブ」として、罰金を科せられる可能性がある。

雇用年金局がこの計画案に関して作成した文書によると、「これは支援策であり、それぞれの個人的な状況にふさわしい失業保険の受給者に限り要求されるものとなる予定です」

しかし英国王立精神医学会は、「それぞれの精神的障害を負った受給者にふさわしい就労関連活動の種類を決定するのは、ジョブセンター・プラスや就労プログラムの担当員となるが、彼らが適切な判断ができるかどうかその能力」について懸念している。

精神衛生関連のチャリティ団体Mindの方針・キャンペーン担当長のビッキ・ナッシュはガーディアン紙に対し、「就職できる状態になる前の人を強制的に働かせることに対しては、非常に心配です。また、(フランス企業Atosが就労可能性についての評価を行ったが、)間違った判断を下されている人が多く、反証する証拠があるにもかかわらず障害が軽いグループに入れられたりしています」と話した。

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***追記 3月1日*** 
2月29日【BBC】 http://www.bbc.co.uk/news/uk-17201799 

国民からの反発が大きかったため、この政府の職業訓練計画による失業者への経済的制裁は関係大臣らによって取り下げられました!