どこの国だったら良かったのかな? | 万事塞翁がフランス

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フランス南西部に住んでもうじき30年になります。双子男女の母、フランス人夫の妻です。日常のあれこれをつぶやいています。

 さてさて、今朝は海岸からもほど近いDさん宅でのお仕事でした。Dさんは90歳とご高齢。現役時代には海運輸送の仕事をされていて、フランスから大きな商船で各国を周り、日本の横浜にも何度となく寄港したんだとおっしゃってました。今も覚えている日本語を披露して下さったことも。海運業ののちは鴨の加工食品とかで財を成されたのですが、数年前に視力をなくし失明され、奥様の多大なサポートの元で暮らされています。

  

 お宅は二階建ての瀟洒な豪邸、です。敷地内に入ると良く手入れされた庭が広がり、玄関へと続く階段の横には大きなプールが。玄関から続く大理石の廊下の右手には超巨大なリビング。左手には一つ目の台所。奥に寝室が二つ。階段を下りた地下階にはダイニングキッチン、客があるときのダイニングルーム、奥には寝室がもう二つ。そして浴室が合わせて4つ、トイレが3つと、仕事の初日に中を案内されたときにはあまりの豪華さと規模に驚嘆したことを覚えています。

 ここでは私、主に家事の代行をしているんですが、奥様は非常にダイナミックで仕事の指示もてきぱきと出す、私のすることにはさほど干渉もせず、やりやすい方です。

 

 今週は金曜に奥様の誕生パーティーを大々的に自宅で催されるということで、その準備がすでに始まっています。1か月以上も前から、テーブルや椅子の配置などを検討されているようでした。12人の招待客とのことで、料理は出張シェフに依頼されました。

  

 なので今日は窓クリーニングの業者さんが入りました。お客様を迎えるにあたり、家はピカピカに磨いておこうというわけです。ピンポーンと呼び鈴が鳴り、現れたのは若い男性二人組です。私は台所の片づけ、掃除などをせっせと行っていますので、遠目から「あ、こんにちはー」と挨拶するぐらい。奥様はあちこち案内しながらこの業者さん二人とあれこれ賑やかに会話する声が聞こえてきていました。

 それも一段落したころ、奥様が私の所に戻って来てなにやら耳打ちをします。「ちょっと! あのチーフの方の子、××人なんだって。(片耳にイヤホンをつけているせいでよく聞こえなかった)アレよね、うちには日本人のあなたがいるし」と、声が弾んでいます。 私が「インターナショナルですよね!」と冗談交じりに返すと、嬉しそうに笑って去って行きました。

 

 彼らの仕事の邪魔にならないよう私も仕事を進めながら、視界の端で何気に作業を見ると、なかなか丁寧な仕事ぶりに見えました。下に降りた際に奥様にその旨伝えると「そうね、前に来てた人はちょっと雑だったからお断りしたら不服そうだったけど、ねえ」 

私「窓に拭ききれていない跡がありましたからねえ」

奥様「でしょ?それにぽってり太ってたし」

  外見?と私は脳内でつっこんでしまいました。

奥様は今日、心なしか気持ちが弾んでいるのです。若い、わりかしイケメンの精悍な二人が家の中を動き回っているのですからそれも無理のないことだと、思いました。(けどこれ、自室でじっと時が経つのを待っている盲目のご主人はどう感じているのだろう、なんてのもふと思ったり)

 

 そろそろ私も仕事終わりに近づき道具を片付けていると、またもや奥様が早足で近づいて来て、内緒話をするように「カレ、アラブ人じゃなかったわ!(さっきアラブ人って言っていたのか!)ポルトガル人だったのよ! なんかてっきり見た目はアラブ人だったから!」となぜか喜んでいるような。一層満面の笑みで去って行きました。

 

 そうですか。チーフさんのお顔からアラブ人だと思っていたら、聞けばポルトガルの方だったと。アラブ人ではなくて良かった、っていうことでいいんですかね。

 フランス社会でかれこれ20数年揉まれ続けたおかげで、こういう、ん⁉って気になる言葉も右から左へ聞き流せる術を身に着けて来たのかも知れません。