政治とカネの問題が浮かび上がる度に、
「この事件の見通しは?」としばしば尋ねられます。
かつて私は東京地検特捜部の副部長などとして、
いくつもの政界捜査をしてきたので、
専門家としての見立てを求められるのです。
そうした捜査で大事なことは、
事実(fact)と評価をハッキリ分け、峻別しなければならないということです。
要は、評価というのは、事実を確定しなければできないということであり、
そのためには、まずは、証拠に基づいて、「事実・真実は何か」を確定する
ということです。
事実が固まる前に、評価を先行させると、誤ったその評価に引きづられ、
正しくない事実が「事実・真相」として一人歩きを始め、ひいては、
誤った評価がいかにも正しい評価のごとく固定化してしまいます。
よく言われるように、先入観や予断・偏見をもって事実を見るのは、
間違いのもとです。
かつて、若手検事に、取調べに関する指導をする際、
私が、「まずは、事実を聞け、事実を聞け」と
強調していたのも、そういう趣旨からです。
何はともあれ、まず、事実を固める。
憶測や不確かな事実から判断してはならない。
事実が確定しない状況では、軽々に評価をしてはいけない。
事実 → 評価 という二段階構えの姿勢を絶えず忘れてはいけない。
週刊誌の調査・記事のみに基づいて事実が決まるわけでも、
ましてや、罪が決まるわけでもないからです。
この事実と評価を厳然と分けて頭を整理するという手法は、
実は、何も捜査だけではなく、一般社会における様々な場面で、
例えば、会社不祥事についての調査、部下の評価などなど、
いろいろな局面でも使えるものだと思います。