《新古今和歌集・巻第十・羈旅歌》
944
百首歌奉りし時
宜秋門院丹後(ぎしうもんゐんのたんご)
知らざりし八十瀬(やそせ)の波を分け過ぎて片敷(かたし)くものは伊勢の浜荻(はまをぎ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
百首の歌を差し上げた時
宜秋門院丹後
今まで知らなかった
鈴鹿川の多くの瀬の波を舟で分け過ぎてきて、
独り寝のために敷くものは、
片袖ならぬ伊勢の浜荻であることよ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1200年、後鳥羽院が主催された
「正治二初度百首」にて
歌を献上した時に詠みました。
作者;宜秋門院丹後
伊勢に向かう道中は、
鈴鹿川の瀬の波を
(舟で)数多く越えて行きます。
たくさんの波を押し分けて進み、
伊勢の浜荻を敷いて
独り寝をすることなんて
これまで知らなかったことですよ。
同じように、
人生の中で
多くの出来事を経験し
また、
多くの人々と死別したり
多くの波(=課題)を越えて
生きてきますと、
浜荻を敷いて
ひとりで寝ることがあります。
人生で
こんな経験をすることになるとは
思いもよりませんでしたよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
ワタクシ、
この歌の真意がつかみきれずに
モヤっとしていますが
一旦、このまま記事をアップしておきます。
「伊勢の浜荻」に
何かもっと深い意味があるだろうと思うのですが、
解読でききれていません…。
『新古今和歌集』の943、944、945番に
続けて
「伊勢の浜荻」が詠まれています。
宜秋門院丹後:生没年不詳。
女房三十六歌仙。
九条兼実に出仕。
兼実の娘、任子(宜秋門院)に仕える。
1201年に出家。
しる:愚かになる。ぼける。ぼんやりとなる。物好きである。いたずら好きである。
しる:理解する。わきまえる。経験する。体験する。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。
しる:統治する。治める。領有する。
やそせのなみ:鈴鹿川の多くの瀬の波。
やそ:八十。数が多いこと。多く。
せ:女性が男性を親しんで呼ぶ語。
せ:浅瀬。早瀬。地点。そのようなこと。
なみ:波。しわ。
なみ:並ぶこと。列。続き。同類。同列。共通する性質。世間。なみだ。
なみ:ないので。ないから。
わく:区別する。判断する。別々にする。区切る。分配する。押し分けて進む。
すぐ:通過する。経過する。暮らす。生活する。終わりになる。超過する。まさる。人が死ぬ。物が消える。
ころもかたしく:着物の片袖を敷いて、一人寝をする。
かた:一方。不完全な。わずかな。一方に偏っている。ひたすら。しきりに。
かた:方向。方位。向き。場所。部屋。方面。方法。手段。片方。ころ。時分。お方。
かた:形状。ありさま。絵。模様。形跡。痕跡。跡。占いの結果。しきたり。慣例。形式。型。
かた:肩。干潟。浦。入り江。
しく:追いつく。及ぶ。匹敵する。
しく:一面に広がる。広く覆う。治める。統治する。広く及ぼす。
しく:何度も繰り返す。度重なる。しきりに〜する。
もの:物体。品物。事情。一般のもの。考えていること。想っていること。話すこと。様子。事態。状況。ある場所。魔物。怨霊。
はまをぎ:浜辺に生えている荻。(伊勢地方の方言で)葦。
はま:浜辺。
はむ:食べる。飲む。(俸禄などを)受ける。
はまる:おちいる。落ち込む。計略にかかる。だまされる。
をぎ:水辺や湿地に群生し、すすきに似た植物。和歌では、秋風に吹かれてすれ合う葉の音を詠むことが多い。
をく:招き寄せる。呼び寄せる。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
正治二初度百首