1975年新潮文庫版『蠅の王』(平井正穂・訳)を読みました。
イギリスで出版されたのは1954年なので、70年も前に書かれた作品ということに。
作者のゴールディングはノルマンディ上陸作戦などにも参加しているそうで、戦争体験が作品にも投影されているようにも感じます。
少年たちが主人公なので、ほとんどの方は若いころに『蠅の王』を読んでいるかもしれません。
おそらく10代の頃に読むのと、大人になってから読むのとでは「怖さ」が違うのではないかと感じました。
未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃を受け、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆り立てられていく……。
少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追及した問題作。
もどかしいくらい物語はゆっくり進む。
無人島に取り残された子どもたちは、年長者であるラーフを隊長にえらび、自分たちのルールを作り、助けがくるのを待つことに。
うるさい大人も居ない、時間に拘束されない自由な遊び時間のようにも思える反面、生きていくのに必要な智恵も出しあわねばならない。
少年とひとくくりに言っても、ちびっこもおり、なかなか統率は難しい。
話し合いの際に「法螺貝」を持つ者だけが発言を許される、なんてルールも作る。
「法螺貝」は秩序の象徴でもある。
最初はうまくいっているはずだったのに、徐々に統率は乱れてゆき、ラーフと対立するジャックのグループとの亀裂が大きくなってゆく…。
獣のように逞しく生き抜くことと、人間らしく理性を保つことのバランスは、こうも簡単に崩れてしまうものなのか…。
そして、野生が理性に勝り、集団的な心理と掛け合わされると人は簡単に<獣>になってしまう。
何と言ってもサイモンの最期が、怖すぎました。
ラーフのかつての仲間だったピギーなんて、結局本当の名前もわからないままになってしまったし、双子たちも生き残るために立場を変えてしまう。
人間は弱い。
弱いからこそ、助け合わないといけないけれど、時に隷属という立場でしか生き残れないこともある。
なので、幼い双子を恨むことはできない。
どんなリーダーだったら統率できたのか?
読み終わっても答えを見つけるのは難しい。
ラーフは知性と理性があり慎重な少年だった。
ジャックは野性的で自分が王になりたくて、ラーフに不満を持っていた。エネルギッシュな少年。
ピギーは、太っているが頭がよくて優しい。
サイモンは感受性が高く、「獣」の正体にも気が付いている。「蠅の王」との会話シーンが作者の一番伝えたかったことなのかもしれないとも思う。
読み終わった後の何とも言えないモヤモヤ感。
やっとフカフカのベットで眠れるね…とは思うけれど、本当にそれはハッピーエンドなのか。
少年たちのその後が気になります。
これ、少年向けなのかな?
結構、しんどい展開でした…。
映画化もされているようです。