道尾秀介さんの『N』を読みました。
本自体にも仕掛けがあり、各章ごとに天地が逆に配置されているので、電子書籍だとどんな風になっているのか気になっています。
『N』は、前書きに「本書の読み方」のページがあります。
6章それぞれの冒頭部分が先に提示されていて、読者が読みたい章から読んでいく。
読む順によって作品のカラーが変わり、自分だけの物語を体験できる、という著者の意図が反映された構造。
読み方は、なんと720通り。
タイトルの意味も気になりつつ、とりあえず読んでみることにしました。
すべての始まりは何だったのか。
「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。
定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。
ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。
殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。
結末はいったいどこにあるのか。
どの章から読んでも良い、と言われても、とりあえず並んだ順に読むことにしました。
章ごとに天地が逆になっているのは、「章と章の物理的なつながりをなくすため」とのことなんですが、ちょっと面倒でした(笑)
(電子書籍だと、この手間は無かったのかも)
ただ、今読んでいるのが物語全体のどのあたりなのか?は、わからなくて、この先、どこへ運ばれていくのか、想像できない面白さはありました。
全体を流れるトーンは重めで、色でいうと鈍色の印象。ずっと「死」の影が付きまとっている感じです。
ですが、象徴的に描かれる「天使の梯子」が花のカタチになる描写は、希望の光にも、一筋の光明にも感じられ、登場人物たちの明日が決して暗く閉ざされてはいないように思えて救いでした。
奇跡のようなその光景を思い描くと、うつむいていた顔を自然と挙げることができる気がするのです。
そして光の輪が重なり花のカタチになるとき、同時にそれは各章のつながりをも示しているのではと感じました。
各章は、時間も場所もバラバラ、主人公も違いますが、少しずつ関連していて、読んでいく途中で、この人物はあの章のあの人…等、気づきがあります。
その人と人、人と時間のつながり方が、読む順によって印象が違ってくるのだろうと思います。
また、たくさんの「死」も描かれています。
そして、人間もそうですが、ヨウム・ルリシジミ(蝶)・犬…と、動物たちも重要な役割を演じています。
とくに「犬」。
人間にとても近い動物だけに…、胸が切なくなりました。
ところで、タイトルの『N』にはどんな意味があるのでしょう。
冒頭にホラティウスの言葉
”なぜ笑う?名前を変えればこの物語はあなたのことなのに”
が添えられています。
「N」は、逆さまにしても「N」であり、かつ自然数を表します。
「N」の数だけ人生があるという意味だと著者は語っています。(刊行記念インタビュー記事)
6つの章に6つのエピソードがあり、単体でも十分面白いのですが、もしできるなら、他の章のエピソードや登場人物の記憶が薄れてしまわないうちに一気に読むことをお勧めします。
通して1回読んだだけですが、他の読み方(読み順)も試してみたいと思いつつ、もう少し時間を置いてからにしたいなと思っています。