レイ・ブラッドベリのSF短編集『太陽の黄金の林檎』を読みました。
レイ・ブラッドベリはアメリカを代表する作家で、『火星年代記』などが有名。
タイトルの『太陽の黄金の林檎』は、アイルランドの詩人イエーツの詩「さまようイーンガスの歌」
And pluck till time and times are done
The silver apples of the moon,
The golden apples of the sun.
から採られているそうです。
映画『マディソン郡の橋』でも使われています。
『太陽の黄金の林檎』は、ブラッドベリの4冊目の単行本で1953年に出版されています。なんと、70年も前。
ハヤカワ文庫から2012年に新装版が出ていますが、今回は図書館で1976年版の文庫を借りて読みました。
ブラッドベリと言えば、萩尾望都さんの漫画『ウは宇宙船のウ』を思い出します。
萩尾望都さんのコミックも久々に読み直してみたくなりました。
宇宙空間に浮かぶ一本の燃える樹木――太陽。それは時間と永遠を焼き尽くし、人間の脳髄を、甘い眠りを無残にも黒く焦がす巨大な溶鉱炉。今、宇宙船<金盃号>は太陽に接触し、巨大な金属の手で燃えさかる黄金の果実をつかみとろうとしていた。その火で冷えきった地球を救うために……SFの叙情詩人が未来と過去の日々を美しい詩情を交えて綴る大人のための22の童話。ジョゼフ・ムニャーニの幻想的なイラスト22枚を収録
短編なので、1篇1篇は、時間がないときでも読み切れるボリュームでした。
ただ、翻訳物によく感じる比喩的表現が、SFなので比喩なのか否か、ときどき頭が混乱してしまったことを告白します(笑)。
燃えている娘…って、ほんとにメラメラしてるのかとか(笑)
収録作、どれも面白かったのですが、個人的には『雷のような音(サウンド・オブ・サンダー)』と『歓迎と別離』『霧笛』が印象に残りました。
『雷のような音(サウンド・オブ・サンダー)』は、タイムマシンで太古の恐竜を狩りにいくツアー客のほんの些細な失敗が、帰着したときの違和感に繋がっている…という、ちょっと怖いお話。
以前に読んだ、ケルスティン・ギアの『夫に出会わないためのToDoリスト』で主人公が話題にしていた小説は、このお話だと思います。
『歓迎と別離』は、萩尾望都さんの「ポーの一族」を髣髴とさせるお話。子のない夫妻を訪ねあるく12歳の少年。
外見が成長しない彼は、2,3年でその土地を離れなければいけない運命を背負っています。
切なくて悲しいお話ですが、新しい出会いを求めて旅立つ彼の後ろ姿が天使のようにも思えます。
『霧笛』もまた、切ないお話。
灯台の霧笛を友の鳴き声と思い現れる太古の恐竜。
ひとり生き残った恐竜の孤独と、灯台守の孤独が、共鳴しているように感じました。
昔「みんなのうた」で聞いた『サラマンドラ』を連想してしまいました。
他にもバラエティに富んだ掌編が詰まっています。
発想の斬新さもさることながら、ユーモアと叙情的な文章、ウイットにも富んでいて、底知れぬ才能を感じます。
たくさんの人に読んでもらいたい1冊です。