萩尾望都さんの小説『音楽の在りて』を読みました。

 

萩尾望都さんと言えば、言わずと知れた少女漫画の大御所。

代表作『ポーの一族』『トーマの心臓』も好きですが、個人的には『11人いる!』『スター・レッド』や光瀬龍さん原作の漫画化『百億の昼と千億の夜』のようなSF作品も大好き。

 

萩尾先生が70年代後半にSF雑誌『奇想天外』に寄稿した短編~中編小説を中心に編集されたのが、この『音楽の在りて』。

単行本として2011年に出版。

その後、未収録を加えて2017年に『美しの神の伝え』というタイトルで文庫になっています。

 

 

 

萩尾望都が祝福する世界に、私たちは生きている。 30年の時を経ていま甦る、ことばの芸術。 圧倒的な感性で紡がれた、著者唯一の小説集。 著者が20代のときに執筆、『奇想天外』に掲載されるや否や話題を呼んだSF小説を待望の書籍化。 人生賛歌ともいえる表題作に、豊かなる想像力に満ちあふれた傑作「ヘルマロッド殺し」。 そして、作者にとって永遠のテーマである「神への挑戦」と「自我の芽生え」を描いた中編「美しの神の伝え」など 12編を収録した、その後の名作マンガとも呼応する、萩尾望都の原点的作品集。

 

 

マンガ家さんの本なのに、タイトルと著者名だけの真っ白な表紙。

その意図するものは何なのでしょう。

敢えて絵も色もない、真っ白なイメージで読んで欲しいという意思表示なのでしょうか?

 

内容は、大きく3部に分かれていて、第1部は「宇宙」が舞台の短編が多く、第2部は「過去」を描いた物語が中心の6編。そして第3部が壮大なSF「美しの神の伝え」と、最初に収録されている「ヘルマロッド殺し」の後日談的なマンガ「左利きのイサン」が特別収録されています。

 

どの作品も、萩尾ワールドの原点というか、プロットを読んでいるような感覚。

 

その発想の自由さ、広大さ、イメージのつながりなどを感じられる作品ばかり。

そして、人間とは?命とは?を絶えず問い続けていて、どの作品も哲学的な印象。

 

また、ユーモアも抜群で、とくに「守人たち」は薬師寺の仏像たちが登場。よく考えたら怖いラストですが、状況を想像すると笑ってしまう。

 

表題の「音楽の在りて」も好きな作品。古代の<音楽>という刹那の芸術を追い求める男の夢。

 

短編も面白いのですが、何と言っても「美しの神の伝え」が圧巻。

描かれているのは、萩尾版の聖書、神話のよう。

私の貧相な想像力では、完全に理解できてはいないのですが、静かな反乱の中から生まれるエネルギーのようなものを感じます。それが新たな扉を開く…まさにファンタジー。

 

どのお話も「めでたしめでたし」とばかり言えないラストですが、物語がその先も続いていくような終わり方なのも素敵です。

 

たまたま手に取った本でしたが、とても良い刺激をもらえた気がします。

素敵な出会いでした。