『古事記異聞』<オロチの郷、奥出雲><京の怨霊、元出雲>に続き、<鬼統べる国、大和出雲><陽昇る国、伊勢>を読みました。

 

大和出雲では、大神神社を中心に、伊勢では二見興玉神社、伊勢神宮等について、主人公・橘樹雅が謎を追っていく物語。

一応、<鬼統べる国、大和出雲>で<出雲編>は完結ということですが、その最後に「出雲と伊勢は、金胎不二・一体分身で同体」という言葉を聞き、そのまま伊勢編へとつながる流れになっています。

 

記紀に隠されてしまった謎を解こうとする雅たちに引っ張られるような感覚で、ともに旅をしている気分を味わえました。

 

 

 

 

鬼統べる国、大和出雲

橘樹雅(たちばなみやび)は研究テーマ「出雲」を調査するうちに、国を追われて京都に連行されていた出雲族の存在を知る。在野の研究者・金澤千鶴子(かなざわちづこ)に、大神神社(おおみわじんじゃ)の主祭神・大物主(おおものぬし)神も素戔嗚(すさのお)尊同様「出雲」の神だと聞いた雅は、奈良に出雲族の痕跡を探し求める。二人を監視する何者かの不穏な動き。大和に存在した出雲村と野見宿禰(のみのすくね)伝説が、雅を真相へ導く。神話に秘匿された出雲王朝の真の姿が蘇る。出雲編完結!

 

陽昇る国、伊勢

神社の屋根にある千木(ちぎ)、鰹木(かつおぎ)。一般的には、その形や数で祀られているのが女神か男神かわかるとされるか、伊勢ではそれはあてはまらない。女神を祀る神社が男神仕様であったり、また、その逆も数多く存在する。日枝山王大学民俗学研究室の院生・橘樹雅(たちばなみやび)は、学会出席ため三重へ向かう准教授・御子神伶二(みこがみれいじ)に同行。はじめての伊勢で大きな衝撃をうける。

 

 

『大和出雲』では、大神神社の拝殿からご神体とされる三輪山の頂上を拝めないことから、雅と千鶴子はその謎を探り始めます。

二人を監視する謎の人物…。

これが何か事件につながるのかと思いきや…そうではありませんでした。

 

大神神社も参拝したことがありますが、静謐な空気があたりに漂う神域という印象。

 

また、長谷寺についても詳しく考察されていて、ストーリーそのもの以上に、その歴史的考察にただひたすら感じ入ってしまいました。

 

「禁足」という言葉についても、ハッとさせられました。

「禁足地」と書かれていたら、立ち入ってはいけないと考えがちですが、確かに、「禁足」とは「外出させないこと」です。神を閉じ込めておく、すなわち祀られている神は恐ろしい神ということになります。なるほど!

 

主人公・雅とともに、千鶴子らの助けを借りて、一つの仮説にたどり着く醍醐味を味わえる、とても興味深い作品でした。

 

 

 

『伊勢』では、二見興玉神社から始まり、伊勢神宮の謎に迫りますが、謎が謎を呼ぶ「伊勢編導入パート」になっているようです。

 

伊勢神宮も去年、訪れたばかりなので(勝手に)臨場感を持って読んでいました。

ところが、今までの知識をひっくり返すような内容のオンパレードで、ただただ驚くと同時に、「いったい私たちは何に手を合わせているんだろうか」という不安さえ覚える展開でした。

 

猿田彦・天鈿女・月読・河童の正体…そして、伊勢に祀られているのは、何者なのか。

きっかけは、豊受大御神を祀る外宮の千木が、男千木で鰹木が奇数なのは何故か?でした。

 

わたしも民俗学をちょこっと履修していましたが、こういう謎はとても興味を惹かれます。

続きが楽しみです。

 

また、「伊勢」では、このシリーズで定番だった、同時に事件が起こって微妙に雅たちのフィールドワークに絡んでくる形式がとられていません。

これはこれで、スッキリしてわかりやすい気がします。

 

そして、今回は雅のブレインである千鶴子以外に、御子神も(電話ではなく)実際に動いているのが新鮮な印象。

過去に仲違いしたままの千鶴子と御子神の再会があるのか?

そんな意味でも、今後の展開が楽しみです