書店で気になっていた本。
タイトルからして、ご葬儀にまつわるお話かと勝手に想像して読み始めましたが、哀しい話なのかと思いきや、読み終わるとさわやかな気持ちになりました。
グリーフケア小説というジャンルがあるのかわかりませんが、葬儀場を舞台に、死者と見送る側の両方に寄り添うことの大切さを感じられる連作短編集。
文章もテンポもとても読みやすく、一気に読み終わってしまいました。
内容紹介
大学生の清水美空は、東京スカイツリーの近くにある葬儀場「坂東会館」でアルバイトをしている。坂東会館には”訳あり”
の葬儀ばかり担当する漆原という男性スタッフがいた。漆原は、亡くなった人と、遺族の思いを繋ごうと心を尽くす葬祭ディレクターだった。「決して希望のない仕事ではないのです。大切なご家族を失くし、大変な状況に置かれたご遺族が、初めに接するのが我々です。一緒になってそのお気持ちを受け止め、区切りとなる儀式を行って、一歩先へと進むお手伝いをする、やりがいのある仕事であもあるのです」
連作短編集
主人公の美空は、就職に何度も挫折しアルバイト先だった坂東会館に就職します。
彼女の家族は両親と祖母。そして彼女が生まれる直前に亡くなった姉がいました。
美空というキャラクターは家族の愛に育まれて大きくなった本当にどこにでもいる女の子という印象です。
アルバイトの延長でホール係として坂東会館で働き始めた美空ですが、自殺者や事故死など訳ありの葬儀ばかりを担当している葬祭ディレクターの漆原の執り行う葬儀を見て感銘を受け、彼のようになりたいと強く思うようになります。
ご葬儀にまつわるドラマを描いた短編集であると同時に、美空の成長物語でもあるのです。
美空の秘密
美空は、その場の気を人よりもキャッチしやすい、いわゆる霊感体質を持っています。
いやいや、そういうのをキャッチしやすい体質なら、この仕事はしんどいんじゃないかと思うのですが、その性質を買われて漆原の下で働くことになります。
坂東会館に出入りする僧侶の里見もまた、死者と語る能力を持っており、よりその人を知ることでその人や家族に寄り添うことができるのです。
いろんなパターンの死が出てきますが、どの死者も自分のことよりも残された家族を思っているのも印象的でした。
読み始めた時は、そんな都合のいい能力を持っている設定ってどうなんだろうと思いましたが、作者が読み手に伝えたいことを考えた時に、間違いなく伝える方法として有効なのかもと思いなおしました。
作者の体験が生きている
葬儀場で働いていた経験と、ご主人を失くされた経験を持っておられる長月さんだからこそ、通り一遍のお涙頂戴小説ではなく、その先へ一歩を踏み出せるさりげないけれど力強いパワーが籠った作品になっているように感じます。
葬儀場の内部事情や、システムなども普段の生活ではあまり気にも留めていませんでしたし、そこで働くスタッフさんがどんな気持ちで働いておられるのかなどもこの本を読むまでは正直気にしていませんでした。
区切りの儀式としてのご葬儀。
人は生まれたからには必ず死ぬ。
残された者が、その死に方に意味を見出そうとしてしまうのは自然なことですが、どの時点かで納得し明日を生きていかなければなりません。
誰もが経験する身近な人の死に、自分はどう向き合うのだろう。
そんなことを思いながら読み終わりました。
ドラマとして面白いと思う
アニメとかドラマの原作としても良さそうだなと感じたのですが、漫画アプリですでにコミカライズもされているそうです。
どんな風に描かれているのか気になります。