1962年に出版されヒューゴー賞を受賞したSF小説『地球の長い午後』は、いろいろなアニメや小説に影響を与えたといわれています。
原題は『温室(Hothouse)』
伊藤典夫さんの翻訳で1977年のハヤカワ文庫版を読みました。
岡田斗司夫さんが宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」の元ネタとして紹介されていたのを見て、興味を持ち、ようやく読むことができました。
ところがよく考えてみると「風の谷のナウシカ」自体、私はあまり詳しくなかったことに気が付きました(!)
アニメイトの連載も読んでたはずなんですが、当時は面白さがわからず、アニメ映画も途中眠くなるしで、まともにあらすじも言えない体たらく。
岡田さんの語りが面白くて、つい手を出してしまいましたが…。
内容紹介
大地を覆いつくす巨木の世界は、永遠に太陽に片面を向けてめぐる植物の王国と化した地球の姿だった!わがもの顔に跳梁する食肉植物ハネンボウ、トビエイ、ヒカゲワナ。人類はかつての威勢を失い、支配者たる植物のかげでほそぼそと生きのびる存在になりはてていた。人類にとって救済は虚空に張り渡された蜘蛛の巣を、植物蜘蛛に運ばれて月へ昇ること。だが滅びの運命に反逆した異端児がいた…ヒューゴー賞受賞の傑作
時間の経過があいまいな世界
太陽が終わりの時を迎えようとしている。
そんな遠い未来の地球が舞台。
自転を停止した地球は、半分がずっと太陽を向き、半分は闇となっています。
動物はほぼ絶滅し、地球の支配者は植物にとってかわられており、その植物も異様な進化を遂げています。
鳥や虫に擬態した植物は、知恵を持ち、空を飛び、人間の存在を脅かしており、その人間も小柄になってしまい知能も退化している…そんな世界。
自転が止まった世界で、重力が変化し、太陽光を大量に浴び続けることで巨大化。
大地を支えているのは、巨大な植物の根なんでしょうね。
主人公グレンは、他の人間の子供よりは少し知恵があるけれど性格に難がありグループを追い出されてしまいます。
ひとり彼についてきたポイリーと共に、他のグループを探して旅に出ます。
昼と夜の区別がないので、時間の経過が曖昧。
でも、グレンの子を宿したヤトマーが母となっているので、それなりに時間が経過しているのだとわかります。
登場する植物たち
独自の進化を遂げたキノコ・アミガサダケ。
高度な知能を持ち、他の生物に寄生して繁殖する。
アミガサダケに操られることで、困難を乗り越え、知恵を発揮するグレン。
お互いに利用しあっているという意味では、寄生でなく共生なのかもしれませんが、次第にグレンと軋轢が生まれてきます。
月との間に糸を張り行き来する蜘蛛に擬態したツナワタリ。
四足歩行する巨大な植物アシタカ。
などなど、この作家さんの生み出すキャラクターは想像を超える奇抜さで、イメージしてはみるのですが果たして作家さんの頭の中で生まれた造形と近いのか、まったく遠いものなのかすらわかりません。
(自由に読み手が想像してOKなんだと思いますが)
冒険の果てに
主人公のグレンの言動からは、「やさしさ」や「愛」はほとんど感じられません。
生存競争の中に身を置いていると、むしろそのほうが自然なのかも。
というよりも、「本能」が支配していると考えたほうが腑に落ちる。
仲間が死んでしまっても感傷にひたる時間はない。生きること、生きのびることが生きる目的になっているかのよう。
その延長線上に、ヤトマーとの交わりもある。
この作品をぐっと引き締めるのは、やはり最後の主人公の選択につきると思います。
たくさんの生き物と出会い、世界を知り、自分を知ったことで下したグレンの決断。
これに異議がある読者は居ないのでは?と思います。
グレンと一緒に旅してきたのですから。
本書の魅力は
いろんなエピソードの連続で飽きさせません。
あまり書くとネタバレになってしまいますが、よくまあ次から次へと出してくるなぁと。オールディスの脳内ってどうなってるんだ?
すごいイメージの氾濫です。未読の方は是非。
これが、わたしの生まれる前に書かれていたんですね…。
こんな世界、生きのびる自信はありません(汗)予言書にならないことを願います。
ところで…。
やはり「風の谷のナウシカ」との具体的な接点はよくわかりませんでした。
ネーミングなども影響受けてるのかな。
きっとイメージは咀嚼され、消化され、あらたなイメージとなって生まれてくるのでしょう。
本の世界観に入り込むのに少し時間がかかってしまった気がします。
SF小説あるあるです。
いろいろ考えさせられましたし、勇気ももらえました。
この本の世界に触れられて、読んでよかったなと思えました。