倉知淳さんは短編の印象が強いのですが、『星降り山荘の殺人』は500ページを超える長編。
1997年に出版され第50回日本推理作家協会賞を受賞した作品。
新装版として2017年に出されたものです。
描かれている時代描写には多少の古さは感じるものの、雪に閉ざされた山荘での連続密室殺人事件というド直球な設定にワクワクします。
散りばめられた伏線、仕掛け、個性的な登場人物…と、てんこ盛りの面白さでした。
内容紹介
雪に閉ざされた山荘に、UFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女性作家、癖の強い面々が集められた。交通が遮断され電気も電話も通じなくなった隔絶した世界で突如発生する連続密室殺人事件!華麗な推理が繰り出され解決かと思った矢先に大どんでん返しが!?見事に騙される快感に身悶えする名作ミステリー。
ミステリにおけるフェアプレイの実践
各章の冒頭に数行の小見出しがつけられていて、ヒントや伏線について示唆しているのが面白いところ。
作者が触発されたと末尾に記している都築道夫の「七十五羽の烏」も同様の形が採られているようです。(未読)
面白いなあと思いました。
所々で作者が言葉を挟むのですから、あくまでもこれは作者の創造物であり神の声を聴いているかのように感じました。
そこに示されている内容に嘘はないという前提で読むので、大ヒントであるはずなのですが、逆に読者の思い込みや錯覚を誘う仕掛けにもなっているあたりが…スゴイです。
どんでん返し
面白さは何といっても、最後のどんでん返しにあるといってよいのではないでしょうか。
探偵役の謎解きに頷きながら読み進めると、なんだかおかしな顛末になっていく…。ちょ、ちょ、待って…と思っていると、
「探偵役が真犯人を指摘する」
の小見出しからの怒涛の謎解きが目から鱗で、痛快です。
読み手は思わずページを繰りなおすことに。
最初のほうで
「本編の探偵役が登場する」と小見出しにかかれていたあたりを読み直すと、確かに登場している!
そこで印象的に登場する人物が探偵役だと思い込まされてしまう見事なミスリード。
そして「探偵役は(中略)事件の犯人ではありえない」とちゃんと書かれている。
これはやられました。
事件のトリック
殺人事件の謎解きは、大掛かりなトリックではなくわりとシンプルな印象です。
ただ、想像の斜め上をいっていたことは確かで、そんな手を使ったのかと驚きました。
伏線の大回収のごとき謎解きです。
和夫の証言についての真偽がひとつ岐路になっているのが考えてみれば恐ろしい気がします。
情報の少ない中、ウソを言っているという前提で推理されると探偵に都合のいい”真相”に導かれてしまうのですから。
キャラクター
UFO研究家の嵯峨島は、UFOに取り憑かれているような人物で、彼が語り出したら一同がだんだん白けていく様子が面白い。彼に与えられた役割はなんだったんだろうと思っていたら、最後に驚きの一撃。
そして作家の草吹のキャラクターも、別の意味でいい一撃を加えます。
和夫が好意を持っている麻子のキャラも嫌味が無くて好印象。
麻子の夢も気になるところです。
宙ノ名前
作者が参考にされた「宙(そら)ノ名前」(林完次)は、天体の写真集で私の本棚にもあります。
日本語の美しさと、天体の美しさを合体させた写真集で、イメージをくすぐられる素敵な本です。
私の持っているのは1997年のものですが、新装版も出ているようです。
フェアに欺く
発売から25年経ってもなお色褪せないミステリー。
全容が明らかになって初めて気づかされる、目から鱗の体験。
時代を超えて残る作品のひとつだと思いました。