大山誠一郎さんの作品は、アンソロジー本などで何本か読ませていただいたのですが、一度じっくり拝読したいと思って『アリバイ崩し承ります』『密室蒐集家』『仮面幻双曲』そして『赤い博物館』などの候補の中から、『赤い博物館』を手に取りました。

どっかでこのタイトル、見聞きしたことがあるなぁと思ったら、松下由樹さん主演でドラマ化されていました。

残念ながらドラマは観ていないのですが、松下さんの割と行動的なイメージと、本作の主人公・緋色冴子のコミュ障のイメージが乖離しているような気がして、逆にドラマがどんな風だったのか興味がわきました。

 

『赤い博物館』シリーズもので、短編が5作。

ラノベ風のキャラクタに、分かりやすい描写。

キャラクタの個性ももちろんですが、本格ミステリを堪能できる1冊

面白くて一気に読んでしまいました。

 

 

 

警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力は皆無だが、ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは、部下の寺田聡。過去の事件の遺留品や資料を元に、難事件に挑む二人が立ち向かった先は――。
予測不能なトリック駆使、著者渾身の最高傑作!

<内容紹介より>

 

 

以下、ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください注意

 

 

 

舞台は警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」

館長を務めているのが緋色冴子。

捜査一課で致命的なミスをし、配置換えになった寺田聡から見た印象は「雪女」。

美人で頭もいいが表情も少なく愛想もない。

典型的なコミュ障である。

黙々と過去の事件の資料を読み、気になった事件、お蔵入りになった事件について、寺田を手足に資料を補完し事件の真相を解いていく安楽椅子探偵

そして彼女自身もまた、謎を持っているようです…。

 

「パンの身代金」

犯罪資料館の個性的な面々の紹介も兼ねた作品。

グリコ・森永事件を連想させる社長誘拐殺害事件の真相を突き止めます。

まったく関連のなさそうな別の事件との接点と結びつける発想がスゴイ。そして破綻なく組みあがっていく推理は見事です。

この推理は常人ではできないのではないでしょうか…。

 

「復讐日記」

元恋人がマンションのベランダから突き落とされたのを発端に、独自で犯人を見つけ復讐を心に誓う男の日記から事件は解決したはずだったのですが、日記に違和感を感じた冴子はもう一度被害者の両親に寺田を接触させるのでした。

日記には確かに違和感があったのですが、冴子によって明かされる想像を超える真相にただただビックリ。

それにしても、犯人の愛の深さにジーンときました。

 

「死が共犯者を分かつまで」

交通事故の直後、自分は交換殺人をしたと言い残して亡くなった男。過去の資料から未解決の殺人事件を調べる寺田ですが、なかなか証言と合う事件がみつからない。

二転三転しながら、伏線が見事に回収される謎解きに拍手を送りたくなりました。

 

「炎」

幼い頃、両親と叔母を亡くした女性カメラマンのお話。お泊り保育で家にいない間に、3人は毒を飲まされ放火されて殺されていた。

当初は叔母に付きまとう男の仕業と思われたが、犯人は見つからないまま。

登場人物が限られているので、大体の予想はついたのですが、でも動機がなんとも…。娘のことは考えなかったのかな。

ラストは切ないです。

 

「死に至る問い」

26年前の事件とそっくりな状況の事件が起きる。同一犯なのか。

殺された男の袖についていた血から、まさかの真相にたどり着くのですが…。

まさかまさかの動機に愕然としました。

子どもへの虐待って、哀しいループは真実を知れば断ち切れるのでしょうか。いろいろ考えさせられました。

 

 

 

 

いずれの作品も、操作の盲点や見落とし、違和感から真相にたどり着くのですが、その破綻のない思考に脱帽です。

 

冴子だけが知っているような事実はなく、事件のあらましは提示されているし、寺田が当事者と会話した内容も、冴子への報告という形で明示されています。

 

つまり、「読者への挑戦状」こそありませんが、読み手は冴子と同じ材料で推理することができるわけです。

読み手が感じる違和感から、ぼんやり真相らしきものが見えるものもあれば、アッという謎解きが展開されるものもあり、1作1作楽しく読むことができました。

 

続編があれば是非、読みたいと思っています。

 

 

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