外れなしのてんこ盛り!そんな印象の『ベスト本格ミステリ2018』(講談社ノベルス)読了しました
2017年に発表された本格ミステリの短編と評論から、本格ミステリのプロフェッショナルが選びぬいたベスト作品集。
毎年発行されているアンソロジー本で、「序」を本格ミステリ作家クラブ会長 東川篤哉さんが、解説を遊井かなめさんが書かれています。
短編小説が11編。評論が1編で、プロが選んだだけあって外れない、読み応え十分で、いろんなタイプのミステリが揃っていて、楽しめました。
各作品の冒頭に、作家さんの短いコメントが掲載されているのも、アンソロジーならではでしょうか。
忘備録かわりに収録作品の感想など、置き留めておきたいと思います。
「夜半のちぎり」 岡崎琢磨
『新鮮 THE どんでん返し』(双葉文庫)収録。
新婚旅行中の新妻がシンガポールの海辺で死体となって発見されるところから物語が始まる。
登場人物が少ないだけに、緊張感があり、最後のどんでん返しで冷水を浴びせられるような感覚に。
仮面の下に隠した男女の愛憎…怖い話です。
作家さんのコメントによると、岡崎さんが殺人事件を扱ったのはこの作品は初めてだそうで、他の作品はどんな感じなのか興味を持ちました。
「透明人間は密室に潜む」 阿津川辰海
倒叙ミステリにおいて自分の特性(透明人間)を生かした犯罪を企んだらどうなるか?に挑戦した作品。
透明人間病という設定も独特なら、そのトリックも捻りが利いていて成程と膝を打ちます。独創的な設定はとっつきにくい場合もあると思うのですが、透明人間に関しては誰もがイメージしやすい特異性だからか、わりとすんなり読めました。
動機は弱いように思いますが、ゲームのような感覚でトリックを想像して楽しみました。
「顔のない死体はなぜ顔がないのか」 大山誠一郎
顔がつぶされ手指が焼かれた女性の死体。二転三転する推理。
「顔のない死体」は被害者と犯人が入れ替わっている?作中に撒かれたキーワードは果たしてヒントなのか攪乱なのか。
精密に組み立てられた純度の高い(遊井かなめさんの解説の言葉)作品。
精密すぎて、ちゃんと理解して読めたかどうか不安です。
「首無館の殺人」 白井智之
アンソロジー「謎の館へようこそ 黒」収録。
館もの、密室の正統派の謎解きだと思うのですが、表現が独特で、これは好みが分かれそうです。
グロテスクな描写が多く、ゲロ密室には苦笑。綺麗でなくてはいけないわけではないけれど、せっかくの巧妙さが、グロテスクなフィルターで忌避されてしまいそうでもったいない気がします。でも、これが白井さんの個性なのかも。
「袋小路の猫探偵」 松尾由美
泥棒を追いかけて駆け込んできた警官が袋小路で消えた謎を、猫探偵のニャン氏が解き明かす。<ニャン氏の事件簿>シリーズの第2シーズン1作目。
シリーズの設定を知らなくても、単品でも楽しめる掌編です。
ニャン氏と、通訳(?)の執事・丸山さんの阿吽の呼吸や、情景がほのぼのして可愛い。
冴えた推理は、こちらも頭がよくなったような錯覚を覚えます。
「葬式がえり」 法月綸太郎
「奇想天外 21世紀版 アンソロジー」収録。こちらは既読でした。
葬式がえりの二人の会話でお話が進んでいきます。
小泉八雲の「小豆とぎ橋」の後日談がじわじわと現実に溶けだしてくるような感覚。ホラーとミステリの融合。最後の最後に立ち現れる情景の怖さが印象に残ります。
「カープレッドよりも真っ赤な嘘」 東川篤哉
アンソロジー「マウンドの神様」収録。
カープファンの東川さんならでは(?)の野球ネタ満載のミステリ。
ファン垂涎のサイン入りユニフォームを狙う「お宝ユニフォーム狩り」に絡んだ殺人事件が起こる。犯人は誰か?ということよりも、なぜ、犯人が分かったのかを解き明かしていく個性的なカープ女子が痛快で面白く読みました。プロ野球を全く知らないと、なんのこっちゃ?になる危険性も。
「使い勝手のいい女」 水生大海
「新鮮 THE どんでん返し」収録。
職場でも恋愛でも都合よく扱われてきた女性。金の無心に来た元カレを…。風呂場に隠したもの。彼を奪った女友達にも居座られてしまう。
相手に強く出られると流されてしまう、そんな彼女のもどかしさやいら立ちに同情しつつ、隠したものも早く何とかしたい。
あれれれ?というどんでん返しと、おまけのようなもうひと捻りも利いていて、最後には読み手が苦笑してしまいます。
「掟上今日子の乗車券 第二枚 山麓オーベルジュ『ゆきどけ』」 西尾維新
営業活動旅行中の掟上今日子のボディーガード親切守の視点で語られる物語。
とある山麓オーベルジュでの裁判官との会話から、過去の事件の動機を解き明かしていきます。兄は何故、可愛がっていた妹を殺したのか。論理的に解きほぐしていく様はお見事です。
「虚構推理 ヌシの大蛇は聞いていた」 城平 京
読みながら、アニメや漫画になりそうな世界観だなぁと思っていたら、城平さんはそういうお仕事もされているようで…。
妖怪やあやかしと言葉を交わすとこのできるヒロイン琴子が、大蛇の悩みを解消すべく沼に赴く。人間が沼に死体を投げ入れた理由と、その時に発した言葉の意味を琴子が淡々と解いていく。
読み進めていくうちにどんどんと奥行きが出てくるお話。
「吠えた犬の問題-ワトスンは語る-」 有栖川有栖
「奇想天外 21世紀版 アンソロジー」収録。既読でした。
もとはNHK「深読み読書会」で披露された解釈をブラッシュアップしたもの。
ワトスンが有栖川氏の体を借りて書いているという小説仕立てになっていますが、このアンソロジーでは<評論>の1編となっています。
「バスカヴィル家の犬」を読んでいないと、まったくわからない内容だと思います。読んだうえでこちらを読むと、その洞察力に唸らされますし、ファンならでは、また作家ならではの視点に気づかされます。
かなりの深読みで成程と思う反面、キャラクターについては作家自身の中にかけらもない人格は端役ならまだしも主要キャラクターとして登場させようがないような気もするのですが…そんなことないのかな。
作品、作家に対する、有栖川さんの想いの深さを垣間見たような気がしました。
「ベスト本格ミステリ」のシリーズは何冊か読みましたが、外れがないので迷いなく手に取ることができます。
フルコースの料理をいただいたような満足感。
ごちそうさまでした。
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