今回のロケで、私は何を得て帰るんだろ
富山に着いた日、私が口にした言葉。
この現場は、たくさんの笑顔が溢れた一方で、たくさんの涙も溢れていた、まさに『人情』を体感したスペシャルな現場だった。
伏木には、実際に相撲愛好会があって、このドラマはそのみなさんをモデルにしている。
撮影では、たくさんの地元のかたにエキストラとして出ていただいたのだけれど、愛好会の数十人のおじさまたちも相撲指導を兼ねて出てくださっている。
そのおかげで、ドラマのようなドキュメントのような、素晴らしい空気感が現場にできた。
愛好会のみなさんを一言であらわすなら、
『頼れる少年』。
あたたかくて優しくて、可愛くてかっこいい。
ドラマを撮影しているのに、合間合間に
「ドラマみたい!」
と思う瞬間がたくさんあった。
私がクランクアップをする前日のことだった。
隆三お父さんのお誕生日を愛好会のみなさんとキャストスタッフで、サプライズでお祝いすることになった。
名目は、中打ち上げ。
稽古場所の一階の座敷で、みんなで乾杯して、わいわいする。
みんな笑ってる。
正月みたい。
良きところで、電気が消えて、部屋が真っ暗になった。
ハッピーバースデーを、みんなで歌った。
お父さんの名前が呼ばれると同時にケーキが運ばれてきて、そのとき初めて、お父さんは自分のお祝いをされてると気がついて、一瞬動けなくなるくらい、驚いていた。
お父さんのご挨拶を聞いて、隣りの席にいた私はもらい泣きをしそうになった。
『相撲甚句』
というものをご存じだろうか。
愛好会のかたが、お父さんのために甚句を披露してくださった。
詞が書かれた紙を配られた瞬間、私は泣くのを堪えるのに更に必死になった。
要所要所で、私たち含め、愛好会のみなさんで一斉に、
「ハー、ドスコイドスコイ!」
と合いの手を入れる。
お父さんが、詞を読むふりをしてうつむいた。
私は、ハンカチを渡そうか迷った。
ふと周りを見渡して、気がついた。
ここにいる数十名、全員が、お父さんから目を逸らしていた。
みんな笑顔で、
ハー、ドスコイドスコイ!
全員が、お父さんの涙に気づいていた。
そして全員が、お父さんの涙に気づいていないふりをしていた。
男って、かっこいいなぁ。
と思った。
詞を読んで、お父さんの涙をみて、みんなの笑顔をみて、冒頭に書いた私の呟きの答えがでた。
韓国で、女優として刺激を得た私。
富山では、芸能人として刺激を受けた。
お父さんがデビューして四十五年経った今、一ヶ月の付き合いをした愛好会のみなさん。
たった一ヶ月。
でも、例えお父さんがみなさんの顔を知ったのがこの前であっても、みなさんからしたら『役者・林隆三さん』とは、長くて四十五年、短くても数十年の付き合いなのだ。
芸能人は、いつもさみしい。
気は遣われても、はっきり言って、チヤホヤなんか全くされない。
舞台をやらない限り、直接「面白かった!」「良かった!」ともなかなか言われる機会もない。
だけど、仕事を続けている限り、私たちは全国のお客さんと長い付き合いができるんだ。
そう思ったら、芸能界がさらに好きになった。
そして、お父さんの口癖が「一期一会」である意味が、なんとなく分かったような気がした。
お父さんは、そんなこと、とっくに知ってらしたんだね。
そんなことを考えていたら、また電気が消えて、ハッピーバースデーをみんなが歌いだした。
ケーキが私のところに運ばれてきた。
そうです、実はこの日は、
『隆三さん&若菜ちゃん、サプライズバースデーパーティー』
だったのです。
ダマされたっ(汗)
や、や、やめてよーッ!!
我慢も限界。
泣きます、こんなの。
本当に今年は、ブログにも書いたけど、誕生日なんか全くなかったし、こんなにたくさんのかたにハッピーバースデーを大合唱していただいたのも初めてだったから、本当に本当に、すごくすごく、嬉しかった。
キャストのみなさんから、プレゼントもいただいた。
「私のかかとはガッサガサだ、ガッサガサ」と呟いていたのを、誰かが聞いていたとしか思えないプレゼント(笑)
お風呂グッズ大好きだから、とても嬉しい。
チヤホヤだって、ちょっとしてもらっちゃった。
そして、翌日が早い私は先にお暇することに。
みなさんが、
「イーヤーサー、イーヤーサーッ!」
と掛け声をあげて踊りだした。
劇中にもこの掛け声、出てくるんだけど、これがまぁ楽しい。
本当に、相撲愛好会のみなさんとこのドラマ関係者の男性たちは、平成たぬき合戦ぼんぽことか、もののけ姫の村の男たちを彷彿とさせる。
ドラマみたい!
リアルジブリみたい!
イーヤーサーッの声に見送られ、座敷を出ようとしたら、私のスカートをグッと引っ張る手があった。
ハルカちゃんだった。
ハルカちゃんと会うのも、これが最後。
彼女は「行っちゃやだ」と言ったきり、口を噤んでしまった。
そして、ボロボロ泣き始めたと思ったら、ぎゅっと抱きついてきてくれた。
その間、みんなは笑いながら、イーヤーサーッを続けてくれる。
とりあえず、彼女を連れて、外に出た。
ただボロボロ泣く彼女としばらく抱き合って、さよならをした。
彼女は、本当によくなついてくれて、どれくらいのなつきっぷりかというと、私がメイクするときも、隣りにきて手を握ったり、彼女がメイクをするときも、私は手を引かれ、彼女の横でメイクが終わるまで隣りにいたり、最終的には、お手洗いにも付いてくるくらい、ベッタリ(笑)。
私だって、これだけ慕ってくれたら、離れるのは寂しい。
部屋に帰った私は、みなさんからいただいた入浴剤をお風呂にいれて気持ちも体もポカポカになった後、ハルカちゃんがプレゼントしてくれた手作りのミサンガをつけて眠った。
またきっと、会えますように、
と願いを込めて。
今回、たくさんの涙を見た。
さすがに名前は出せないけれど、四天王の中で最も明るい突っ込まれキャラのかたと二人で話す機会があって、何故だか震災の話になった。
そしたら先輩が、突然ポロポロ泣き出した。
私も泣いた。
なのに、撮影が終わったみんなが帰ってきた途端、また適当なことをしてみんなを笑わせ始めた。
かっこいいなぁ、と思った。
ベテランの先輩方の涙を二度も見る現場なんて、これから先、ないかもしれない。
こんな先輩たちがいるんだもの。
芸能界って素晴らしい。
私は、四天王を見て、こんな『心』を持ち続けられる俳優になろう、と思った。
四天王と出逢えて、
本当に良かった
そして、東京へ帰る日、まさかまさかの空港まで見送りに来てくれたハルカちゃん。
ありがとう。
毎日ミサンガつけてるよ。
東京でこのミサンガをつけていると、少し誇らしい気持ちになるんだ。
あんなに純粋な少女が、こんなに好きでいてくれるのなら、
私はもう、自分を安く見積もるのはやめよう、と。
ハルカちゃんのお誕生日でもある、
12月16日、19時半~
北陸・東海地区にて、
NHK総合テレビ、
『港町相撲ボーイズ』
絶対見てね。
関東でも、すぐに放送するよ、きっと。
だって、めちゃくちゃ良いドラマだもの。
楽しみに待っててね。
みなさんお元気ですか?
私は元気です
明日も良き一日を
ごきげんよう
あ、高岡では瑞龍寺に行きました。
気が強すぎて、酒井さん、呼吸困難寸前。
仏堂に至っては、中にいられなくて、影から星飛雄馬の姉の如く、仏像を眺めるテキ子を見守っていた私。
一緒にいたテキ子は、最初は「気?わかりません」
と言っていたのだけれど、帰りにうっかりまた仏堂を通ったら、テキ子がすごい勢いでグラッとよろけた。
「気とか普段わからないけど、さすがにこれは私もわかります」
と言っていた。
明らかに二人とも異変を感じてしまうくらい、なんだかすごかった。
そして、可愛い巫女ちゃんがいた伏木神社。
本当にお世話になりました。
穏やかで優しい空気感の神社で、伏木の街を護っているのがこちらの神様だということがよく理解できる、素晴らしい神社でした。
ついでに、芸能人ブログっぽい写真もね。
基本的に富山でも「デートか!」「バカンスか!」と突っ込まれるような服ばかり着ていた私。
買ったわよ、Tシャツ。
カジュアル、うーん、楽ではないな。
でも新鮮で楽しいかも。
そして、黒ずくめの女、ことテキ子初登場。
主張の強い私。
「若菜さんは薄い紫色が好きです」
とテキ子が言っていた。
何故、薄い、が追加されてるのかは不明。
私は、紫は確かに好きだが、薄い紫はそうでもない。
12位くらい。
普通だ。
時々こういう謎の追加をするテキ子だが、先日私が、引越ししたいなぁ、と呟いたら、すぐにスマートフォンで「こんな物件ありますよ」と見せてくれた。
その場限りの暇つぶしの会話。
後日。
「私、若菜さんの引越しにまで手が回らないので、他のスタッフに頼みましたから!」と軽ギレしていた。
えーッ!!
頼んでないけど…
なんか、ごめん。
そして、富山での焼き肉。
基本的に食事のときは、私が取り分けやお肉を焼く担当をするのですが、テキ子に焼き加減を聞いたら「姫の自由でいいんですよ」と柔らかな微笑みを携えて言った。
姫なら焼かねぇ。
そしてその後、「私は足の指が開きますが、若菜さんは開きますか?」と聞くので、開かないと答えたら「若菜さんは弥生人です。私は縄文人」と、不可解な話題を提供してきた。
不思議な子だ。
写真五枚目は、高岡駅前にあったドラえもんの像。
肝心のドラえもんが半分切れちゃってる、という衝撃。
photo by TEKIKO
不思議な子だ。