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「どうして死ぬと、人は泣くんだろうね」
先日、飲んでいるときに先輩が言った。
私は言葉が出ずに、黙ってしまった。
それから数日、私の頭にはその言葉がやけに色濃く残っていて、たくさん考えた。

一昨日、桜が散ったのを目の当たりにした私は、ある尊敬している友人のことを考えて、「この時期は、やっぱきついなあ」と思ったりしていた。

そして、気分転換も兼ねて髪をカラーリングでもしようと、美容室に電話をした。
水曜日なのに、休みだった。
今日あらためて電話をしたら、電話に出た店長のTさんが「昨日、ワン(仮名)が死んじゃった」と言った。
私は花屋に寄って花束を作ってもらった。だけど、やっぱり枯れないものにしよう、と思って、成長を見ていけるような小さな観葉植物を買って、美容室に赴いた。
お店の入り口で、泣きながら出てくる人とすれ違った。
店内に入ると、Tさんと、サロンスタッフのFさん、そして二人のお客さんが、泣いていた。
ワンは、それはそれはたくさんの優しいお花達に囲まれて眠っていた。
そして、「来た!伝えて!」とワンが私に言った。
もう少し分かりやすく私に言葉を流してもらえるようにワンにお願いしながら、私は席についた。
初めて座ったその席からは、ちょうどいい感じでワンの顔が鏡越しに映っていた。

私がこの美容室に通い始めたのは、上京した12年前。当時住んでいたマンションの下にあったのが、この美容室だった。そして、偶然にもワンがTさんのパートナーになったのも12年前。
美容室の看板犬でもあるワンは、必然的に私とも付き合いが長い。
当時東京に友達が一人もいなかった私は、ワンやTさんに会える時間がとても大切で、また温かみを感じる貴重な時間でもあった。

鏡越しのワンを見ていたら、涙ではなく、真夏か!というくらいの大量の汗が吹き出してきて、それがあまりにも異常だったので、Tさんも驚いて、「ちょっと!だいじょうぶっ!?」とタオルを貸してくれた。
一体あの汗はなんだったんだろう。

カラーリングをしてもらっている時、ワンがある映像を私に流してくれた。
私は、そのことをTさんに伝えていいのか迷った。
迂闊に伝えるのは、あまりにも不謹慎だから。
Tさんは、私が人の「気」をもらいやすい体質だということを知っている。
なので今日も、私の異常な汗にもすぐに対応してくれたり、何も言わなくても必要なときにお店のドアを開けに行ったりしてくれた。
そんな気遣い屋のTさんだから、私が「気」に疲れてしまうのではないか、とワンが亡くなったことを私に連絡していいのか迷っていたそうで、その矢先に私から連絡が来たから、「これはワンが若菜ちゃんを呼んだんだな」と諸々合点がいったようだった。
それを聞いて、私はメッセンジャーとして呼ばれたことを真摯に受け止めることにした。
迂闊に伝えるのは不謹慎だけれど、今回は、伝えないほうがむしろ酷なような気がしたから。
私は、ワンが私に流した映像と、その時に抱いたワンの思いをTさんに伝えた。
そして、それが都合のいい人間の解釈、思い込みではないことを証明するために、その時のTさんの状況と、ワンに向けて言ったTさんの言葉も、合わせて伝えた。
Tさんは、「言った」と言葉にすると同時に顔をくしゃくしゃにして、私の髪を持ったままポロポロと泣いた。私もつられて泣いてしまった。

私が美容室にいる3時間程度の間に、一体何人のワンのファンが彼に会いに来ただろう。
入れかわり立ちかわり、老若男女問わず次から次へとお花を持った人がやって来たのだけれど、その内泣いていたのは全員だった。
そして全員が、とても優しそうな顔をしたかただった。

鏡越しにその光景をずっと見ていた私は、気がつけば、いつの間にか笑顔になっていた。
ここまでたくさんの人間に泣いてもらえる犬は、そうはいない。
Tさんが、「これだけたくさんの人が来てくれるなんて、この美容室にとってのワンの功績は大きかったんだな、と思う」というようなことを言った。
私もそう思う。
そして同時に私は、そんなにも人に愛されるワンを育てたTさんって、すごい!と、心から思った。

「どうして死ぬと、人は泣くんだろうね」
まだまだ隠れていた「好き」が、全部出ちゃうからなのかもしれない。
普段は出しきれない、あるいは自分の手では届かないところにある「好き」も全部全部出し切ってそれがマックスになった時、針が振り切れて、自動的に泣くことになるのだろう。
そういう生き物なのかな、ってさ。

涙も好きも溢れちゃう。
だけど、今日美容室に一番溢れていたのは、「ありがとう」という心の声だった。
みんなからワンへ。
ワンからみんなへ。

最期にワンに会えて、本当に良かった。


今日の記事を、訝しく思うかたもたくさんいるでしょう。
でも、家系なんで仕方ないんですよね、こういうの。
どんまーい。


愛を見失わないでね

明日も良き一日を


ごきげんよう