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私にとって“出会わなかったら”の「もしも」がない作家というのが数人います。

好きな作家さんの文章に共感したとき、私はいつも、
「昔あの作家が通った道を今歩いているんだ」
と希望で胸がいっぱいになります。

道標。
出逢わない可能性はなかった、と思うスペシャルな出逢い。
ひと月弱前、数年ぶりにそんな出逢いがありました。

橘曙覧。
たちばなのあけみ、と読みます。

幕末の歌人。
幕末期の人なのに、全く知らなかった…。
周りの歴史マニアに聞いても、彼の名を知っている人はいませんでした。

せっかくだから、これからは私の「とっておき」に。

独楽吟という52編の歌をまとめた歌集があります。
それらは全て「たのしみは」から始まります。
例えば「たのしみは、本を読んで『これ私のことだ!』と同じ志を持った人を見つけたとき」など、些細だけどあたたかいものばかり。
とても可愛い。
ほっこりします。

橘曙覧は、あの知恵の塊、正岡子規が最も絶賛し愛した歌人でもあります。
子規をもってして「実朝以来、歌人の名に値するものは橘曙覧、唯一人」と言わしめた逸材。また別の誰かには(すぐ忘れる私…)、「前に万葉集、後ろに橘曙覧」みたいなことを言われたり(曖昧な記憶…)。
にも関わらず、本人は欲が浅く、至ってマイペース。
でもそれこそが、彼が日常に幸せを見つける達人だという証になるのですから面白いものです。
また子規は彼を評するに当たり「清貧の歌人」というキャッチフレーズのようなものをつけるのですが、それがまぁ見事な表現で、さすがは正岡子規。「清貧」って橘曙覧のために作られた言葉なんじゃないかというくらい彼は貧しい生活を、そして清らかな心を持っていたようです。
子規が絶賛したというと「難しいのでは」と腰が引けるかたもいらっしゃるかもしれませんが、私はこの歌集を読んで子規のことまで好きになってしまいました。
「子規さん、天才のあなたが絶賛したの、これ!?」と。

ちなみに写真は全て「独楽吟」が収録されているものですが、一枚目左は訳、右は解説という印象。左は直訳なので読みやすいのですが、何故か最後に一文をつけ足していて、それが高杉晋作の辞世の句に下の句をつけた女流歌人を彷彿とさせる。でも読みやすいですし、思い入れの強さが感じられる素敵な本です。右は解説なので直訳文は読めないのですが、解説なのに押しつけがなく、全編を通して歌のリズムを一貫してくれているので、読後感は清々しく自由な気持ちになりました。
二枚目は、独楽吟以外の歌集も収録されています。ちょっと難しいけれど、シンプルな元の形を堪能できるので、そういう醍醐味はガツンと味わえる骨太な一冊です。
もうね、好みですね。
オススメは3冊読み比べだけど、もし一つ選ぶなら「楽しみは」が現代的で読みやすいかなぁ。

この独楽吟のような心持ちで日々を過ごせたら、きっといい。
そう思います。

私にとってスペシャルな出逢い、橘曙覧。

独楽吟、ご存知のかたはいらっしゃらないとは思いますが、これを機に興味を持ってくださったかたが、オリジナルの独楽吟を作って聞かせてくださったなら、とても嬉しい。

幸せを見つけること、不謹慎ではないと思うから。

きっかけがないと罪悪感を持ってしまいそうで。

独楽吟がそのきっかけになったらいいな。

だいじょうぶ。

私も踏ん張るから。

だいじょうぶ。

元気を目指しましょう。


今日もお疲れさま


ごきげんよう