数年前。
とある大きな駅からほど近い、とある大型CDショップでの話。
私は、「また東京か」と憂鬱な思いを抱きながら、実家のある田舎町から東京に向かう電車に乗っていました。
都心へ近づくに連れ、ずいぶん遠くまで見渡せる緑や茶色の景色から、徐々に視界は狭く、色はグレーに変わり、最後にはうるさいくらいの派手なネオンで目がチカチカしてきます。私は、そのチカチカネオンがピークの街で電車を降りました。そして、「東京の自宅に帰ったらまたいろいろなことにダッシュしなければいけない」という思いから、一秒でも一人暮らしをしている東京の自宅に帰ることを遅くさせようと、あがきの想いを込めて、駅前にある大型のCDショップに入って時間を潰すことにしました。
DVD売り場で適当にうろうろしながら、私の頭の中は「もうやめよう、芸能界じゃなくたっていいじゃない、いいよ、よく頑張ったよ。このままうUターンして実家に帰ろう」などと繰り返していました(←秘密だけど、この頃、ネガティブがかっこいいと思ってたんだよ。まあそれはさておき)。
さあ実家に帰ってしまおう、
と思ったその時でした。店内にある、・・あの・・あれ、なんつうの、あれ、モニターみたいなやつ、あの、売ってるDVDを流して視聴できるやつ、店頭モニター?、違うな、あの、あれ、・・・テレビ!テレビでいいや、テレビがね、あるじゃないですか、それの前にね、一人のおじいちゃんが立っていたんです。そのおじいちゃんは、それまで何度も見かけたことがあった人だったので、必然的に目を奪われるかたちになりました。
おじいちゃんはいつも、その大型CDショップのビルの裏手で、黒い服を着て、傍らには黒い傘、枕代わりのアイボリーのリュック、そしてダンボールに包まって寝ていました。
そのおじいちゃんが、テレビの前に立っていたのです。もちろん、黒い服に黒い傘にアイボリーのリュックという出で立ちで。
変な言い方ですが、私はおじいちゃんが目を開けている姿を初めてみました。だっていつも寝ているから。
ショップ内のおじいちゃんは、ニコニコ笑っていました。
視力の悪い私でも、おじいちゃんの目じりに皺が寄っているのがはっきり確認できるほど、顔をくしゃくしゃにして笑っていました。

この時点で、もらい笑い。

「何の映画が流れているのだろう」
私は、おじいちゃんのほうへ近づき、隣りに並んでテレビに目をやりました。そこに流れていたのは、
ザ・ドリフターズのコントDVD、でした。
私は、「くぁー」という妙な感慨の声を漏らしてから、おじいちゃんと一緒にドリフのコントを見ました。みなさんご存知の通り、それがもう、おっかしいんだ、ほんとに。ゲラゲラ笑っちゃって止まらなかった。
そして気がつくと、先ほどまでおじいちゃんと私の二人しかいなかったその場所に、もう三人が増えていました。40代と思われる奥様風の女性。そして10代後半と思しき男の子二人組み。そして、恐らく60代前半のおじいちゃんと当時20代半ばの私。
みんなで一緒にゲラゲラ笑いながらドリフのコントを夢中になって見ました。
加藤さんがボケた時に、奥様が「やだもーう」と言いながら私の肩をパンと軽く叩けば、私もそれに笑って応えます。
私はこの時、笑いながらも全身に鳥肌が立っていました。

すごい!
ドリフって、すごい!!

と。世代も性別も職業も置かれている環境も、一人だろうが友達とだろうが関係なく、みんながドリフターズを知っていて、それを楽しんでいる。
何年目の路上生活かは分からないけれど、今おじいちゃんが暮らしているダンボールの家には見たところテレビはありません。でもドリフは知っている。奥様は、きっと「志村後ろ!」と言いながら育った世代なのでしょう。男の子達も、流れの速すぎる流行社会の中に、そして大衆性よりも個性を尊重されがちなこの時代に育ちながらも、やはり大衆受けの代表、ドリフは知っている。もちろん、私もドリフを見て育ちました。
そして、みんながおっきな口を開けて笑っている。
これって、すごいことだと思いませんか。
小手先では成せない、圧倒的な積み重ね。
もはや“歴史”ですよね。
老若男女問わず、大多数の人達が持っているであろう共通の思い出。
誰かが誰かを諭すような、そんな面倒なのじゃなくて、同じ目線で、ただただ笑っちゃえる、ついつい吹き出しちゃう楽しい思い出。
そんなにないような気がします。
だからこそ、
ドリフってすごい!
テレビってすごい!
続けるってすごい!
ショップを出た私は、もう一度店内のほうへ振り返りました。
おじいちゃんは、まだキラキラした目で、目じりにいっぱい皺を作って笑っていました。
その後、私が足取り軽く東京の家へ帰ったことは、言うまでもありませんね。
ハレー彗星や桜のように、とんでもなく強い光をどこか儚く表現できる、瞬間の存在も素敵です。
でも、私はそういう強い光を持っていません。ましてやドリフのように、強い光を何十年も放つことなんて出来るわけがありません。
でも、続けることはできます。
もしも“続ける”ということ自体が才能ならば、試してみようじゃないですか。
そして、いつか老若男女を問わず、たくさんの人に笑ってもらいたい。そんな作品で、そんな役を演じたい。
ビバ、チカチカネオン。
あっぱれ、東京。
帰宅した私は、今日出会ったドリフファンのみなさんのこと、そして随分前に出合ったドリフのコントに再会したことを友人に話しました。友人は言いました。
「そのおじいちゃん、神様かもね」
本当に、そうかもしれません。神様がおじいちゃんに変身して「続けてみてもいいんじゃない?」と伝えに来てくれたのかもしれません。
ーたかがお前ごときのために?わざわざ?あり得ないでしょ。
って?
そりゃそうだ。
でも月並みだけど、心の中に神様がいるとしたら、都合よく解釈したってきっと許してくださると、思、う、んです。だって現に、それから数年経った今も、確実にパワーになってるんだもの。それにね、あながち否定しきれないのには理由があるんです。
その次の日、おじいちゃんが住んでいるあのダンボールのお家を、いつものように通過しようとしたら、きれいさっぱり無くなっていたんです。跡形もなく。何年間も、何十回も見かけてきたのに、まるで最初から何もなかったかのように、当たり前な雰囲気でサラリーマンの男性数人が、そこで煙草を吸っていました。
あれから数年。
いまだにあのおじいちゃんの姿を一度も見かけていません。
それに、私も最近引越しをしてしまったので、あの道を通ることは、もうほとんどなくなるでしょう。
おじいちゃんがあの日を境に姿を見せなくなったことに関しては、現実的な解釈なんて、いくらでもできます。でも、何となく、そんな必要はないような気がして仕方ありません。
ただ言えるのは、あのおじいちゃんの笑った顔が今もあまりに鮮明に残っていること。
そして、私がこの仕事を続けている限り、あの日のことを絶対に忘れないであろうこと。
です。

これは、私の大切な思い出話です。
自分の仕事の素晴らしさを再確認しました。
そんな話。
そして、続けるってかっこいいな、って話。
でもね、誤解しないでください。続けないのも、選択だと思います。もしくは、何か一つ、絶対に続けなければいけないもののために、もう一つの何かをやめるっていうのもすごいことだと思います。例えば、学校(会社)に行きたくない、って思って、悩んで悩んで悩みまくって、辛くなりすぎて、例えば生きていくことを続けるか、というところまで考えてしまったら、それは、生きるということを続けるために、学校(会社)をやめる、ということも大事な選択だ、というようなことであって。また例えば、私のように、「やめる」って言ったのに、「やっぱりやる」って言ってブログを再開するのもこれも選択。やめたからはじめられる、みたいなね。
私は一体、何を言っているんでしょうか。
よく分からないね。
ぶふぉっ!
っていうか、相変わらず長いですね、私のブログ。

さ。

そんなわけで、帰ってきました酒井若菜です。ブロガーを卒業してから早4ヶ月。アメブロガーを卒業してからは・・・どんぐらい?2年くらい?
帰ってきちゃいました、ごめんね。
ブログを再開した経緯はまた後日あらためて書きますが、ともあれ今日からまたブログをはじめます。
あ。初めてのかたは、よろしくお願いします。
以前の私のブログを読んでくださったかたにはもうお馴染みなことですが、私のブログ、基本、スーパー長文です(今日ほどじゃないけれど)。そして、絵文字を使わないので、読みにくいです。気をつけて。
そして、同じく以前のブログを読んでくださったかたはご存知かと思いますが、初めましてのかたにはあらかじめお伝えさせていただいときます。私、落ち込んでません(文章が暗い、と心配されることが多々あったもので)。
以前のブログを終えた理由も、戒めの意味を持って「ちょっとは悩みとか持ちたいから」というほど楽に生きている私でしたが、結論から言うと、この4ヶ月、全く悩めませんでした。すごく楽しい毎日で、憂鬱な日は一日たりともありませんでした。びっくりですよね。中2の学年文集に「こんな世知辛い世の中で」とマセたことを書いて先生に怒られたあの頃の私は何処へ行っちまったんでしょう。
とにかく、私は毎日幸せです。
ちなみに今は、BS朝日の新ドラマ「7万人探偵二トベ」というドラマのレギュラーキャストとしての撮影と、フジテレビの某ドラマのゲストとしての撮影を並行でがんばっています。二トベはコメディ、ゲスト出演はシリアス、両極な役です。そして、両方とも30歳の役です。私も大人になってきました。いよいよ「若作り」というキャラ設定を演じる日がやってきました(二トベ)。楽しい、ほんと。
みなさんはいかがお過ごしですか?
大丈夫?
笑ってますか?
今後、このブログを通して、みなさんの生活に微力ながらも彩りを加えるお手伝いができれば嬉しいと思っています。
明日、みなさんが笑って過ごせますように。
ついでに私も。

では、また。

ごきげんよう。