弁護士 若林 豪史

弁護士 若林 豪史

ITと、AIと、法律と、、、

映画「国宝」を観に行きました。評判に違わず、本当に素晴らしかったです。

私があえて一言だけ言わせていただくなら、「世襲の苦しさ」がありありと描かれているのが秀逸だと思いました。

「世襲」って、「実力がないのにずるい」とか「親の七光り」とか、子が労せずして結果だけを手にするようなイメージを持たれていますよね。一般的には、「うらやましい」と言われますね。

でも、世襲することになった子ども本人からすれば、世襲ほど苦しいことはないのだろうと思います。

例えば、歌舞伎役者の子に対して、「おまえはいいよな。将来歌舞伎役者になれるのだから。」と言ったとすると、歌舞伎役者の子は、逆に、「おまえはいいよな。将来何の職業にでもなれるのだから。」と言い返したいでしょう。

世襲というのは、親の職業に就くことを約束される一方で、逆に言うと、その職業に就くことを強制されるのであり、他の選択肢を奪われるということでもあります。

「僕は将来、医者になって人助けをしたいんだ」と言えば、普通は、「素晴らしいね。頑張りなさい」とほめられるのですが、歌舞伎役者の子が同じことを言えば、「あなた、自分が誰だと思っているの。勝手なことを言うのはよしなさい」と叱られるのです。

ちなみに、私自身の話をすると、私の両親は、弁護士ではありません。このことは、今思えば幸運だったと思います。

弁護士の世界も、医師の世界と似たような面があり、子を弁護士にして事務所を継がせるということも珍しくありません。

しかし、私自身の立場で考えると、例えば、司法試験や、実務に出てから苦しい思いをした場面において、もし仮に、親から「必ず弁護士になりなさい」と言われてその通りにしていたのであれば、どこかの時点で挫折していたのではないかと思うことがあります。

自分で弁護士になると決めたからこそ、どんなに苦しい思いをしても、「自分で決めた道なのだから」と思い返し、投げ出すことが無かったのではないかと思うことがあります。
(あくまでも私自身の話です。世襲だから投げ出すと言っているのではありません。逆に世襲の苦しさを乗り越えた方々に対しては尊敬の念を持ちます)。

「国宝」をきっかけにして、世襲の苦しい一面が世の中に知られると良いなあと感じたのでした。

交差点で停止中、前に停止している車が、前方の信号が青になったにもかかわらず、気が付かずに発進しない場合、後ろにいる車が、クラクションを鳴らして、信号が変わったことを知らせる行為は「違法だ」という意見を目にすることがあります。

しかし、多くの場合、その説は誤りである可能性があります。その理由を、弁護士として以下に述べたいと思います。

クラクションは、法律において「警音器」と呼ばれます。
そして、警音器の使用について定めた道路交通法の規定を根拠に、「違法だ」との主張がなされています。

具体的に条文を見ます。

道路交通法第54条第2項は、「車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。」と定めます。

そして、これに違反した場合、第121条第1項第9号により、2万円以下の罰金又は科料に処することとされています。また、交通反則通告制度が適用される場合、警音器使用制限違反は、反則金額は3千円で、違反点数はありません。

条文によると、結局、クラクションを鳴らして、前の車に発進を促す行為が、「危険を防止するためやむを得ないとき」に該当するかどうかが問題となるのです。

この点に関して、対面信号が赤から青に変わったにもかかわらず、停止している車両の運転者が、スマホなどに気を取られて、信号に気が付かずに、車線の中央に停止し続ける行為は、非常に危険です(それ自体、違反行為です。第7条参照)。

特に、運転席が高い位置にある大型の後続車両の運転手などが、前方の信号が青色であるため、漫然と進行した結果、発進せずに停止したままの前方の車両に気が付かずに、追突事故を起こす可能性があります。

もう一度繰り返しますが、対面信号が青であり、且つ、交差点の先が渋滞で進行できないような例外的な状況でないにもかかわらず、進行せずに、車線の中央に自車を留まり続けさせる行為は、後続車両による追突事故を誘発する可能性が高いため、非常に危険です。

つまり、この危険な状況を解消するには、クラクションを鳴らすことで、前の運転者に、信号が変わっていることを知らせるほかありません。
運転席から降りて、前の車のガラスをコンコンと叩いて、信号が変わったことを知らせる方が、余程危険です。

つまりは、「危険を防止するためやむを得ないとき」に該当することは明らかですから、道路交通法第54条第2項但書の場合に当たるため、警音器の使用は違法ではないということになります。

逆に、違法と考えられるクラクションの使用は、次のようなケースが考えられます。
すなわち、前の車の運転者が、信号が変わったことに気が付き、既に発進を開始しているにもかかわらず、「ちんたらしてんじゃねえよ」という怒りの気持ちから、後続車両が執拗にクラクションを鳴らす場合。
また、前の車の運転者が、対面信号が黄色に変わったタイミングで、停止線で停止したことに、後続車両が腹を立て、「さっさと行けよ」という抗議の気持ちから、クラクションを鳴らす場合。

こうしたケースにおいては、前方車両による「危険」が存在しているとは言えませんから、クラクションの使用は、違法となる可能性があります。

なお、実際のケースですが、横断歩道を渡ろうとしている小学生が、歩行者用信号が赤であるにもかかわらず、横断を開始してしまい、青信号に従って進行している自動車にひかれそうになっているシーンを目にしたことがあります。
この時には、自動車の運転手が、クラクションを強く鳴らして、小学生に赤信号であることを知らせ、気が付いた小学生が慌てて歩道に戻って行きました。

クラクションの適切な使用は、このように人の命を守ることがあります。本当に危ない場合には、躊躇なく鳴らす必要があります。

ですから、クラクションの使用を安易に違法だと断定するのではなく、「危険を防止するためやむを得ないとき」に該当するかどうかという視点が常に重要だと思います。

今回は、生成AIにより作られた合成動画を、民事裁判の証拠として提出される恐怖についてです。

生成AIの使用により、誰でも、手軽に、本物でないのに本物のように見える動画を、作り出せるようになりました。
もちろん、「よく見れば偽物だとわかる」という声はあると思いますが、本物と見分けがつかないレベルになることは、時間の問題です。

ここで困ったことになるのが、Aさんが、Bさんに対して、民事裁判を起こした際に、生成AIで作成した偽物の動画(ディープフェイク動画)を証拠として提出する行為についてです。

例えば、Aさんは、Bさんから暴行を受けたとして、慰謝料を請求する訴えを起こしたとします。証拠は、Bさんが、Aさんの顔に向けて思い切りパンチをし、Aさんが倒れ込む様子の映った、防犯カメラ映像です。

以前であれば、そのような証拠が提出されている以上、Bさんが「自分はやっていない」と述べたところで、裁判官が、「防犯カメラの映像から、暴行があったことは容易に認定できる」として、慰謝料の支払を、Bさんに命じることになりました。

しかし、その防犯カメラの映像が実は偽物で、ぱっと見では全く偽物だとわからないような精巧なものだとしたら・・・。
考えるだけで恐ろしくなります。
(ちなみに刑法104条の証拠偽造罪は、刑事事件についてのみです。詐欺罪・同未遂罪に問われる可能性はありますが、全く不十分でしょう)。

生成AIによる動画には、必ず透かしを入れるべきだとの意見もあるかもしれませんが、編集ソフトで簡単に修正・消去できてしまうため、解決策にはなりません。

こういう時代においては、弁護士や裁判官は、証拠映像をそのまま信用するのではなく、「裏付け証拠(目撃証言、カルテなどの物的証拠、スマホの通信記録など)」との総合評価を怠ってはならないという基本に立ち返る必要があります。

場合によっては、動画が本物かどうか、デジタル技術の専門家に鑑定を依頼することも必要になります。

生成AIによる偽動画は、裁判制度の根幹である「証拠の信頼性」を揺るがす深刻な脅威になりかねません。
もちろん、だから生成AIはダメだと言っているのではなく、司法制度が、技術の進歩に合わせて、法整備・技術的検証・証拠評価の運用改革等、アップデートを進めて行かなければならないのでしょう。