NHK記者時代に文部省(当時)を担当した経験を踏まえ、日本の教育にどんな歴史があり、どんな問題を抱えているかを丸ごと知ってもらおうと考え、不思議なことが多い教育界について、初歩の初歩からの解説を試みています。

 まずは、「ゆとり教育で学力低下とはいえない」。2003OECD学力調査で、読解力などの順位が大幅に下がりました。02年から週5日制が導入され、授業時間は一割削減、教える内容は三割削減され、いわゆる「ゆとり教育」が始まっていたため、これが学力低下の原因だと騒がれましたが、本当でしょうか。ゆとり四年目の06年調査でも少し下がりました。09年調査では少し上がりました。09年からは授業時間を増やした「脱ゆとり教育」が算数・数学と理科で先行実施されましたが、この時の生徒は調査を受けていません。12年調査ではさらに順位が上がります。脱ゆとりで学力が回復したと言われましたが、中学校で全面実施されたのはまさに12年から。

 つまり12年に好成績だった生徒たちは、小学校六年間は「ゆとり教育」を、中学校三年間は国語は「ゆとり教育」、数学と理科は「脱ゆとり教育」を受けたことになります。「ゆとり教育」と同時に始まった「総合的な学習」成果が出たという評価も可能です。この点について、慎重な分析がないまま「脱ゆとり教育」成果だと論じてしまうのは、自分たちの成果だと誇示したい文科省発表に誘導されたものと言われても仕方ありません。表や事実をもとに論理的に考える力を問う調査ですが、政治家や新聞記者も含めた大人たちの学力がはなはだ心配です。