スティーブ・ジョブズが本当にすごいのは、たいしたことのない技術を「革命」のように見せる手腕だ…と著者は批判めいたことを言っていますが、ジョブズのような「強いリーダー」を安易に理想化してしまうことに警鐘を鳴らします。日本には「強いリーダー」がいないといわれるが、むしろ喜ぶべきで、強いリーダーがいなくても大丈夫なくらい豊かで安定した社会を築いてきたことを誇ればいい。現代では国家という単一の組織のリーダーで解決できることは限られ、そのようなわかりやすい仕組みで動いてはいない。

 かつて富国強兵や経済成長といった「大きな物語」があり、リーダーの言うとおりに実行する兵士がいればよく、官僚制とよばれる組織がそれ。大企業の多くもそう。だが、官僚制は不確実性に弱く、突発、予想外のアクシデントに弱い。現代はゲリラ戦の連続、トップの判断を待っていられないくらい現場では事件が進行している。「現場の声を聞かない判断の遅い上司にイライラ」し、「マニュアルに載っていない小さな心遣いにお客が喜んでくれた」経験を持つ人も多いだろう。

 組織に強いリーダーは必要ない、正確にいえば強いリーダーはいてもいいが任せっきりでは組織はうまく回らない。ジョブズをサポートする優秀な人材、店員の存在なくしてアップルの成功はあり得なかっただろう。