きっかけは一足のスパイクでした。
このボロボロのスパイクは、僕の宝物です。
18歳の頃から、プロスポーツ競技に携わり、21歳で若葉治療院を開業しました。
初めは苦労もしましたが、たくさんの患者さんが来てくれるようになり、経営も安定したころでした。
いつのまにか、鼻が高くなっていたのだと思います。
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ソフトボール部の女の子で、いつも足を痛めてくる子がいました。
とてもやさしい女の子でした。
あるときは足裏の痛みで走ることができず、
それが治ると内脛(うちすね)の痛みで走ることができず、
彼女はいつも痛い足を引きずるように白球を追い続ける毎日でした。
練習が厳しい高校でしたので、“仕方がない”・・・そう思っていました。
ある日、彼女は捻挫をしてきました。彼女の細い足は紫色に腫れあがりました。
その捻挫が治るとすぐに、今度は反対の足を捻挫しました。
インターハイ、彼女にとって、高校最後の大会の直前のことでした。
「いくらなんでも、おかしい」 そう思い、スパイクを持ってきてもらいました。
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シューズ袋から出てきたのは、石灰の混ざった大量の白い砂と・・・
片方380gもある・・・ 力尽きたスパイクでした。
足のサイズが23cmの女の子が、26.5cmのスパイクを履き、休みの日には一日8時間も練習をしていました。
シューレースは伸び切り、硬化し、ほつれ、切れかけていました。
インソールは紙のように薄くなり、穴があき、
靴底の鉄鋲は、彼女の柔らかい足を・・・容赦なく突き上げていました。
剣は削れ、摩耗し・・・
真っすぐに立つことすらままならない状態でした。
ボロボロになったスパイクは・・・
彼女自身の足でした。
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なんでもっと早く気が付かなかったのか?
なんで、ここまで見なかったのか?
申し訳なくて泣きました。自分の不甲斐なさに、泣きました。
「怪我をすれば、チームのみんなにも迷惑かけることは、解るかな?」
そう言うと、彼女は最後の力を振り絞るように、
「もう、三年生の最後だし、“スパイクを買って欲しい”とか・・・
これ以上お母さんに悪くて言えない」
そう言って、泣き崩れました。
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そんな彼女の足を壊してしまった自分にさえ、彼女はとても優しくて、
その優しさが
おとせるはずもない罪として、深く心に刻みこまれました。
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以来、子供たちに、シューズを正しい履き方を伝える活動を始めました。
足を痛めてくる選手のシューズの点検も行うようになりました。
犯してしまった罪は、償えるものでもありませんが、
二度と同じ過ちをおこさないように、
子供たちの足を精一杯守っていこうと決めました。
守ると決めて、決めたことを守る。
約束することが、大事なんだと思います。
たとえその約束が守れなくても。
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2012_02_14 きっかけは 一足の スパイクでした。#001