後鳥羽院 み渡せば | わたる風よりにほふマルボロ

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み渡せば花の横雲たちにけりをぐらの峯の春のあけぼの

 

後鳥羽院

夫木和歌集春四、1323

 


 
【現代語訳】

 

あたりを見渡すと、彼方には

華やかな花の横雲が

立っているではないか。

小倉山の峯の小暗(おぐら)い、

ほの暗い春のあけぼのだ。


(訳:梶間和歌)
 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

をぐら山ふもとの野辺の花薄(すすき)ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ

詠み人知らず 新古今和歌集秋上347


白雲の春はかさねてたつた山をぐらのみねに花にほふらし
藤原定家 新古今和歌集春上91

 

み渡せば:見わたすと、見渡したところ。

 「ば」は、未然形に接続すると

 順接の確定条件、

 已然形に接続する場合は

 順接の確定条件、

 順接の恒常条件などを表す。

 仮に「見渡さば」と接続するとしたら

 「見渡したならば」の意となる。

 

花の横雲:桜の花を横雲に喩えた表現。

 横に長くたなびく雲を「横雲」と表す。

 

たちにけり:立ったことに気づいたよ、

 立っているではないか、

 立ったのだなあ、などのニュアンス。

 「けり」は気づきの助動詞で、

 見渡したところ(=見渡せば)

 花の横雲の立っていることに気づいた、

 その気づきに心が動いている

 (=立ちにけり)、という形。

 「ぬ(に)」は完了、確述の助動詞。

 

をぐらの峯:「小暗(をぐら)し」を掛ける。

 参考歌の詠み人知らず「をぐら山」は

 紅葉の名所である嵯峨の小倉山だが、

 丸谷才一は後鳥羽院「み渡せば」の

 「をぐらの峯」を

 「花の名所として知られる小倉の峯に

 転じ」たとする。

 参考歌の定家「をぐらのみね」は

 立田越えの途中にあるという

 未詳の峯で、桜の名所。

 後鳥羽院「み渡せば」の「をぐらの峯」も

 こちらにあたる。

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丸谷才一の『後鳥羽院 第二版』に

頭注に「十首御歌名所花」とあるが、樋口芳麻呂の考證によれば、この十首歌は嘉禎三年夏の詠、すなはち「最晩年の作」といふことになる。

とありまして。

 

頭注とは、詞書とは違うのかしら。

『夫木和歌集』が手元にないので

確認できません。

 

 

最晩年の詠ということは、

隠岐に流されたのちのつれづれに

詠んだ歌ということですね。

 

この2年後に院は亡くなります。

 

 

 

丸谷は、この歌が

長年無視されてきた理由を

 

「み渡せば」と言ひ、「横雲」と言ひ、「はるのあけぼの」と言へば、いづれも『新古今』の読者にとつてはごくありふれた言ひまはしであり、道具立てであつて、新味がないのである。

おそらく『新古今』的世界の残肴を各種、ほんの一口づつ一皿に盛つたやうに見えるんではなからうか。

 

と述べ、

 

参考歌の定家の「白雲の」

もともと評価されていたこと、

 

後鳥羽院自身

見わたせば山もとかすむ水無瀬川夕べは秋となにおもひけむ
新古今和歌集春上36

という名歌を得ていることも

指摘しています。

 

 

それでも丸谷は

この歌の良さに執着するとして、

 

上皇は(略)小暗い闇と咲き誇る桜とを対置するという工夫をおこなつた。

後鳥羽院の狙いは純粋な色彩美にあつた。

すなはちわれわれは、「花の横雲」の匂やかな明るさから、「春のあけぼの」の薄明を経て「をぐらのみね」の晦暗に至るまでの展望を一時に楽しむことができる。

しかもその晦暗は単なる暗さではなく、「小暗し」の「小(を)」によつて微妙な限定をつけられ、かうして明暗の対照と調和はまことに洗練された意匠を形づくるのである。

ひよつとすると、上皇は隠岐でこの一首を得たとき定家の歌風で詠んでも定家よりももつとさりげなくてもつと巧妙だなどと、得意だつたのではなからうか。

 

と熱く熱く語っています。

 

 

まあ、ここは

私が私の言葉で要約したり

語り直したりするより

 

丸谷の文章をそのまま読んだほうが

(だいぶ読みにくい文章とはいえ)

その熱が伝わるでしょう。笑

 

丸谷は本当に

後鳥羽院が好きなのですねえ。

 

 

み渡せば花の横雲たちにけりをぐらの峯の春のあけぼの

 

 

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