西行 里なるる | わたる風よりにほふマルボロ

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夕郭公(ゆふべのほととぎす)といふことを

里なるるたそがれ時の子規(ほととぎす)きかず顔(がほ)にてまたなのらせん

西行
玉葉和歌集夏325

 


 
 
【口語訳】

里にもようやく馴染み、
たそがれ時に鳴いている

ほととぎすよ。

「誰そ彼」という問いに

答えるかのような、その鳴き声よ。
それを聞き過ごしたふりをして、

もう一度

名乗りを上げさせてやろう。

慕わしいその声を

もう一度聞いてやろうじゃないか。

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 
里なるゝ:里に馴染んだ、

 里に親しんでいる、の意。
 

たそがれ時:夕方。

 「たそがれ(時)」はもともと
 「誰(た)ぞ彼(かれ)」といぶかり

 尋ねるような刻限、の意。


きかず顔にて:
 聞かないふりをして、

 聞こえなかったふりをして。
 「……がほ」とは、

 「いかにも……という表情、

 態度」の意。西行の愛用表現。

 

 

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「誰ぞ彼」に対して
「名乗らせむ」を配置したおもしろさ。
 
 
心待ちにしたほととぎすの声を

聞いて、ただ喜ぶでなく、
わざと聞かないふりをして
もうひと声上げさせようとする。

いまの俗な言葉で言うと、
ツンデレとでも表したものか。


好きなのですよね。


好きなのに好きと言わない、
その声が聞こえてうれしいよ

と言ってやらない、


屈折をひとつ挟んだうえでの

愛情表現。

 

 

ツンデレは

日本の伝統的な美学なのかしら。

 

恋歌でも、

「いいかな」と感じている

アプローチだとしても

初めのうちは無視したり

ぴしゃっと跳ね返したりするのが

マナーであったわけですし。

 

 

里なるるたそがれ時の子規きかず顔にてまたなのらせん

 

 

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