蛍光X線分析検量線プログラムについて | 和同開珎ー皇朝銭専科のブログ

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あるお客様よりデータリストの数値とスペクトラムグラフの波形が一致していないのでは?

というお問い合わせをいただきました

なかなか鋭いところを見られているな~と感心しつつ色々とお話させていただきました

 

本来であれば蛍光X線分析とはなんぞや?というところから説明しなくてはいけないのでしょうが、あまりに長くなるので基本的な部分はぐぐってください

 

度々説明させていただいておりますが当方ではそれぞれのコインにあった検量線プログラムを使い分けているという説明をさせていただいております

小判など古い金貨にはそれ専用の、近代金貨、近代銀貨、古銅貨、近代貨幣etc....etc....

 

なぜそんな面倒な?本来分析なんてモード変更する必要なくどの機械でバシッと分析すれば機械の精度や分析ポイント誤差、検出器の感度による誤差はあるだろうが、ほぼほぼ同じ分析結果が得られるのでは?とお思いになられているのかと想像します

分析方法で最も定性精度の高い(本来の個体毎有比率)分析は個体全てを完全溶解しての分析であり、こうして得られましたデータは絶対値といえます

ただ、収集品や文化財、学術試料など破壊検査のできない検体に対して行うことは当然出来ません

通常そうした非破壊分析を行う場合 X線分析などが有効とされ広くこの方法で行われております

しかしX線分析とはいえ検体が金属である場合、どんなに頑張ったところで表面から1~2mm通常はせいぜい0.1mm~0.5mm以内程度の深さまでのデータであり、特に表面に近い組成ほど強く検出する性質があります

実際の検体(特にコインの場合)近代金貨銀貨についてはそれほど影響はございませんが古金銀、古銅貨などは検体の上と下、また表面と内部では著しい組成差がございます

これは技術の点であったり各金属間の親和性など様々な要因が関係しているのですがこの説明はまた非常に長くなるため今回は省略させていただきますが個体内の品位のばらつきについてはこれまでお客様には説明してきましたとおりです

下データは表面洗浄いたしました寛永通宝を当方の専用モードで分析した結果です

一方、下のデータは同じ個体同じポイント、モード以外の条件は全て同じに設定したうえで標準的な分析モードで分析した結果です

上の専用モードでは銅鉛がほぼ全てでありますが下のモードでは多量の亜鉛が検出されているのがわかるかと思います

モードを変更しただけでどうしてこんな差が出ているのか?

不思議に思われるかと思います

水に少量の油を混ぜ合わせた場合の事をご想像ください

ほとんどの油は表面に浮かび上がってきます

金属鋳造の場合も全く同じ現象が起こっているのです

それぞれの金属間にはそれぞれ異なる親和性が存在しスッと馴染んで溶け合う金属もあれば完全に分離してしまう金属などなど様々です

全てが均一に混ざり合う特性の金属であれば表面付近と内部でそれほど大きな差は発生しないでしょうがこうした各金属間ごとの親和性の差異や鋳造技術の問題などから特に電解精錬法が発明された明治以前のコインは表面と内部では著しい差が発生しています

また近代貨であったとしても表面品位を上げるための色揚げ加工などのあるコインなど当然表面付近と内部では著しく品位が異なります

そうした差を少しでも修正しより破壊溶解分析に近い数値を得る事が出来るようにプログラミングされたのが専用の検量線ソフトとなります

下のデータは先ほどの寛永通宝の中心部付近を分析するためグラインダーで削り、先ほどと同一の、ただしコインの中心部の専用検量線ソフトによる分析結果です

一番上の分析結果と比較していただけばお分かりの通り、非常に近い数値を示している事がお分かりいただけることでしょう

一方下のデータですが、同じポイント(コインの中心部)の通常モードでの分析結果です

先ほどは亜鉛が14%を越える濃度で検出されていたにも拘らず、同じポイントで今度はほとんど検出されていない事がお分かりでしょうか?

これが何を意味するか・・・亜鉛はコインの表面付近に集中していたという事です

 

通常のモード(一般的な分析機関によるX線分析方法)ですとこうして表面付近のデータしか得る事が出来ず本来の貨幣平均値は得られません

こうしたX線分析の弱点を補うために数多くの標準試料やいくつもの検体で破壊分析を繰り返す事によりより個体平均値が得られるように設定したものが専用の検量線ソフトです

当方での分析結果は表面付近のデータだけではなく(スペクトラムは表面付近のデータ)より個体全体平均の近似値になるようプログラミングされたものです

 

今回テストに使用いたしました寛永通宝です