前回のブログから、技術者の方からのメッセージを何通かもらった

大雑把にいうと、ターゲットのないイノベーションより、お客さんの立場にたったものを作るべきという感じのものが多かった

シャープの技術者の方から、自分でも不具合を感じていて、
「新製品、新製品というのではなく
お客様の声をちゃんと聞いて既存製品の質を高めていく
むしろそちらのほうが大切だと最近感じていました。
その点も和田さんと同意見です。」

というメッセージをもらったが、私は日本の方向性とはそんなものだろうと私は信じている

別の技術者は、大学の教員の質の差を論じていた

これはその通りだと私も信じている

そして、大学教授というのは、社会に出たことがないのに、何かにつけて、世の中は変わっている、高校までの教育が悪いといい、高校までの教育改革や入試改革を訴えつつ、自分たちの終身雇用は堅持しようとするクズの集まりである(心ある人――大学の定年延長に批判している、能力の高い人は、苅谷武彦さんのように、よその国の教授になるのだろう

さて、大学教授、とくに東大教授のように、なってしまえば、何の努力もせずにいれる(面倒な講義のようなデューティをこなしていると彼らは反論するだろうが)人や勝ち組の人を除くと、世の中の男はつらい思いをしている

そして、それが、ある種の「男たるもの」バイアスに大きな影響を受けていると指摘している本に出会った

ジャーナリストの奥田祥子さんが書いた『男性漂流』(講談社プラスアルファ新書)である

すごい本だなと思う本に出会うことは割に少ない

中田考さんのイスラムの本、水野和夫さんの資本主義の終焉の本、武田知弘さんのヒトラーの経済政策、小幡績さんのバブル論など、はっとさせられる本にはいくつか出会っているが、ルポで、これだけはっとさせられたのは、福田ますみさんの『でっちあげ』以来だから5年ぶりだ

私は現場をしらない人間の空理空論は原則的に信じない

どんなに偉い学者が書いていても、私の実感に会わなければ、おそらく人間の心理というフィルターを通れば、現実とは違ったものとなると思っている

日本の場合は、専門家と称して、現場のことを何もしらないやつが多い

北朝鮮に入ったことがないので、誰ひとり、金正恩後継を当てられなかった北朝鮮の専門家

イスラムのことも知らない上に、アラビア語もしゃべれない、イスラム専門家

行動経済学も情報非対称の経済学もわかっていると思えない経済学者たち

実際の受験生の声を聞かず、一部の具合の悪い子供たちをみて、子供を論じる教育学者

往診も行ったことがなければ、家族会を開いたこともない認知症の専門家

私のような素人でも負けるはずがないとつい思ってしまう

そういう点奥田さんのルポは長年の追跡取材を含めて説得力がある

生涯未婚率が増える中、「婚活」圧力がいかに世の独身男性を苦しめているかという第一章も非常に説得力があった

育児を男も(参加)すべきという世の風潮が、そうでなくても、仕事ができないと首になる社会環境の中で、いかに男を狂わせ、さらにいうと母親の側のニーズにもあっていないかという話は、もっと説得力があった

私は、アメリカ留学中に、児童虐待が問題になっていた(年間数百万人のオーダーだ)が、非常に説得力のある解説を聞いたことがある

アメリカという国は、軍事力を維持しないといけないとか、経済戦争で勝たなければいけないという背景から、一般庶民からエリートにいたるまで、子育ての過程で、「男らしくしろ」というのが強調される

ところが、職場では男女同権が強調され、家庭でも子育てなど男女で同等の役割分担が求められる

「俺は男だ」と言ったとたんに、「性差別者」(sexist)のレッテルを貼られ、エリート社会から追い出されたり、離婚を求められたりする

男らしさを示すには、自分より弱いものへの暴力しかはけ口がなく、外でやると刑務所に入ることになるから、家庭内で虐待をすると

そのときは、ものすごく、説得力を感じた。今も当たっていると思うが、日本も似たような感じなのではないかと思う

アメリカほど、子育て中の男らしさは要求されないかもしれないが、やはり男だからという無言の圧力はある

第三章の男の介護の問題、とくにシングルの男性の介護の問題は、私自身の長年の老年精神医学の経験からもまさにリアルである

男の介護は仕事をやめてまでに意外になりやすいし、仕事をやめてまでやっているのだからと完璧を求めやすい

女性と比べて人に助けを求めにくく、人の声を聞こうともしない

私は男女とも介護のために、仕事をやめるべきでないという論者なので、『働きながら、親をみる』(PHP研究所)という本を出したのだが、やめてしまうとどうなるかの描写が本当にリアルである

児童虐待以上に、まじめな人が高齢者虐待に走ってしまう現実も本当に悲しい

次の映画のネタにしたい話がいろいろと載せられる

現実に遭遇するまで他人事の話だが、誰もにふりかかりかねないことをリアルに描いた本当に秀逸なルポだ

後半部分は、私とちょっと考えが違う(しかし、それも現実なので、否定をするつもりはない)ところもあるが、それは次回のブログで書きたい