昨日のブログに対して、「子供を虐待することは当然よくないことですが、
ちょっと気になったことがあったので送ります。
精神障害、パーソナリティー障害が結果的に生活保護予備軍などの負の遺産を将来に残す
という部分です。(略)
統計的に精神障害の人は生活保護を受ける人が多いのは理解します。
でも精神障害でも僕のように自立した生活をしている人もいます。
また以前入院していた時に精神科の先生がいっていたことですが
精神疾患にかかる人は「優しい人」が多いと言っていました。
優しい人の定義があいまいですが、
情にもろいというかそういうところがあるのかもしれません。(略)
精神障害ってやはり負の遺産なんでしょうか?」(引用終わり)というメッセージをいただいた

そのように誤解されるのであれば、筆者の筆力のなさであるし、少なくとも多くの精神障害をお持ちの方やそのご家族の方に不快な思いをさせたり、傷つけたりしたとしたら、精神科医として恥じるべきことだとは思っている

ただ、一般論を語る際に、あくまでも確率論であることを理解していただきたいところはある(ブログの場合は、なるべくそのような書き方を心がけているつもりなのだが)

虐待を受けると、みんなが精神障害やパーソナリティ障害になるわけではないが、虐待を受けていない子供と比べると、その確率はかなり高くなるとされている

普通に育った子どもの1%が比較的重いパーソナリティ障害になるとすれば、虐待を受ければ20%や30%には増えてしまう

でも、ならない人間もかなり多いし、虐待をバネに社会の成功者になる人もいる

重いパーソナリティ障害の人にしても、みんなが犯罪をするわけではない

ただ、やはり確率は高い。生活保護を受ける確率も高い

でも、もちろん成功者になる方も文化人やタレントになる方もいる。経営者として成功する方もいる(ただし、従業員に冷たい確率が高いので、ブラック企業の社長になりやすいかもしれないが)

でも、全体の期待値で考えると、虐待が減ったほうが、将来の生活保護支出も減るし、犯罪も減るだろう

だから、やはり虐待は将来に負の遺産を残すと言っていいと思う

もう一つ言っておきたいのは、精神障害を十把一絡げに考えるべきではないということだ

統合失調症やうつ病などは、やはり生物学的ファクターが大きい。病前性格は、まじめな人が多い気がする(気を遣いすぎるという点では、このメッセージの主がいうように「やさしい」とも言える)

でも、虐待がらみのパーソナリティ障害は、人を憎んだり、暴力的になったり、人を愛せなくなってしまう確率が低くはない

私としては、虐待がらみの精神障害やパーソナリティ障害が負の遺産と言いたかっただけで、精神障害全体がそうだというつもりは毛頭なかった

いずれにせよ、確率論の問題だということで、一般化として聞こえたとすればお詫びしたい

確率論というのは、数学的発想の中で重要なものとは思っている

いろいろなことを確率論でとらえる姿勢は大切だろう

アベノミクスにしても、私はうまくいかない確率が高いとは思っているが、うまくいく確率だってゼロだとは思っていない

で、こんなメッセージをいただいた

「以前、和田先生は安倍政権の経済政策について数学力を挙げて批判されていましたが、
アベノミクス賛成派には数学がそれなりにできる方も多いので(例えば、経済ブレーンには浜田宏一氏を始め、大学受験で数学をとっている方が多く、日銀総裁の黒田氏は高校時代理系)、その批判は根拠のない誹謗中傷です。
経済政策に関する考え方が違うというだけで、数学力がないとか大学受験していないという批判をするのはどうなのでしょう。」(引用終わり)

私が思うに、このメッセージは何のために数学を勉強するのかに非常に示唆を与えてくれるものだ

数学が出来る人間が、かならずしも数学的に正しい(絶対の真理はないから、妥当ということだろう)ことを主張するわけではない

一つには、人間の判断というのは、いろいろな形で狂ってしまうというのが、現在の認知科学の基本的な考え方だ

数学が出来る人でも、自分の立場、所属する学派の学説、あるいは単純に自分の感情によって判断が歪められる

よくよく考えたら、経済学者のほとんどは、数学のできる人だろう(日本の場合は、数学で受験していない経済学者もいるが)

しかし、学派によって、理論も経済予測も全然違う

数学的判断より、自分たちの学派の理論のほうが優先される

これは数学のできる人がオウムのような宗教に入ると、そちらの理論に従うようなものだ

また感情によって判断も違ってしまう

数学が出来る人でも落ち込んでいれば、自殺や投資の差し控えのような、悲観的判断しかできなくなることもある

もう一つは、人間というのは、自分の得になる理論がよく見えるようにプログラムされている

タバコを吸う人は、タバコの害より、たとえば、タバコに精神安定効果があるとか、タバコにダイエット効果があるという理論に飛びつきやすい。これは本人のインテリジェンスにあまり関係ないとされる

金持ちの経済学者や身内が金持ちの経済学者は、仮に数学ができたとしても、累進課税を厳しくすることより、消費税を上げるほうの理論に飛びつく

自分が得をするような理論のほうが、数学的判断より正しく見えてしまうのだ

三つ目は、もっと性質が悪いが、数学が出来るゆえにわかっているのだが、相手が数学ができないことがわかっているとだまそうとする

なぜか日本企業でなく、外国人が日本の法人税を下げろ。そうすれば企業が強くなるという

法人税というのは利益課税だから、利益がでないと税金を安くできる

日本の場合は、法人税が高かったころのほうが、企業が人件費を多く使ったり、経費を多く使ったり、設備投資をしたりで、利益を圧縮したが、結果的に企業が強くなった

法人税を安くすれば、企業はわざわざ経費を作る必要がなくなる

かくして、人件費を削り、設備投資を減らして、将来への投資が減る中、当面の利益をたくさんだそうとする

ここで内部留保が増えれば企業も少しは強くなるかもしれない(こんな低金利・金融緩和のご時世で、利益を出している企業が内部留保を増やす必要があるのかは疑問だが)

でも、株主がもっと配当をよこせという話になれば、税引き利益は、かえって減るかもしれない

要するに国に法人税として金が入るはずが、外国人の投資家のほうに流れてしまうだけ、あるいはそれ以上にむしり取られるかもしれない

おそらくは外国の人は、数学ができるから、こんなことはわかっているだろうが、そのほうが株価が上がるとか適当なことを言って言いくるめられてしまう

そもそも金融業というのは、数学が出来る人が数学ができない金持ちをだまして商売をしているようなものだ

要するに、以上のような理由で、数学が出来る人が、数学的に妥当なことを言うとは限らない

ブレーンになるような方は野心家が多いし、自らが金持ちの人が多いから、自分が得になるようなことを言うだろう

政治家の人の中でも、自分が得をするような政策をする人が多い

しかし、安倍氏は、私の聞く範囲で、かなり性格のいい人のようだ

生活保護を打ち切るのも、解雇規制を緩和するのも、弱者に厳しいからでなく、そのほうが日本を強くするから、結果的に弱者が救われると本気で信じているようだ

もちろん、彼の理論が本当に正しい確率はゼロではない

ただ、私が為政者が頭のいい人、数学のできる人、心理学を多少は勉強した人にやってほしいのは、ブレーンがなんと言おうと、最終的な判断は為政者がするからだ

数学が出来る人や肩書に惑わされて、それを鵜呑みにするというのが、数学のできない人、学歴コンプレックスのある人にありがちな(あくまでも確率論である、数学のできる人、学歴コンプレックスのない人だって、そういう判断をする人は少なくない)判断のパターンである

要するに数学が出来る人に為政者になってほしいのは、数学ができるブレーンにだまされないですむ、あるいはほかの判断材料も求めるようにしてほしいからだ

それを私が言いたかったのだ

少なくとも何のために数学を勉強するのかといえば、意外に数学が出来る人にだまされないためにという側面が大きいだろう

今回の自民党の圧勝にしても、数学ができる金融業者は大喜びをしているはずだ

昨日、株高で年金の運用がうまくいくという話をテレビでしていた

確かにそういうメリットはある

ただ、外国の年金運用者は自国の株が高くなくても、外国で儲けるとかはきちんとする

自国の株価に年金の運用を依存するというのは、運用責任者の能力の問題でもあることは忘れてはならない

数学のできる人に、国民が簡単にだまされるようになった

70年代から続く、数学軽視の愚民化政策は、数学のできる金持ち(むしろ外国人投資家に多い)にとっては、大成功だったと言えるだろう