一昨日は、私の尊敬する老年医学の専門家のところに行く

また胃瘻の話題が出る

胃瘻というのは、そのくらい画期的な治療のようだ

点滴をして治る患者もいるが、多くの場合、点滴では「元気に」はならない

胃瘻の場合は、「元気になる」ことが多いそうだ

医者が下手に薬をやるなり、注射をするより、栄養が摂れるようになるほうが、人間の元気は基本的に回復される

点滴の場合は、むくみが出たり、苦しそうになることが多いが、胃瘻では、そういうこともあまり起きない

ただ、そこが逆に難点になった

点滴(IVHも含む)では、数年の延命は実はなかなか難しかった(ものすごい設備の整った大病院だと、それもたまにあるので問題になっていたが)が、胃瘻の場合は、特養のような施設でも10年以上長生きしてしまう

医療より栄養のほうが、人間の寿命に影響を与えるということなのだろう

実際、栄養状態がいいほうが、免疫力も高まる。褥瘡もできにくい

そして、点滴と違って、抜かれることが少ないから拘束が必要ないことも多い

だから、それで歩けるように、起きられるようになる人も多いのだが、もともとが寝たきりの人に行うことがおおいので、その状態で10年とか生きてしまう

するとやはり亡くなる前には、体の拘縮がひどくなったり、見た目が気の毒な状態になることが多い

そこで、胃瘻可哀想論が出てくる

点滴で体が浮腫むというのは、実は心臓の機能が点滴に耐えられないということなので、息も苦しいし、つらい

血圧や血糖値を薬で下げると頭がぼんやりしたり、だるくなる年寄りが多い

だから、入院医療の定額制(いくら薬や点滴をしても病院に入るお金が同じ)にして、薬や点滴が3分の1に減ったとかいう時に、入院高齢者はみんな元気になったという

しかし、入らなかった栄養が入るようになって飢えが改善されるので、元気になるし、にこにこすることも多い

私に言わせたら、点滴や薬物治療のほうがよほど不自然な治療だ

大学病院のように長期入院の患者や末期の患者、そして超高齢の患者(私が東大の老人科で研修していた際には、在院者の平均年齢は70台前半だった)を診ていないところの医者が、自称、高齢者の専門家と称して作っている日本老年医学会(ここが、高齢者の薬漬けをむしろ勧め、高齢者医療のきちんとしたガイドラインを出していない)が胃瘻をやめろキャンペーンに加担しているそうだが、もっと点滴や薬を減らせと言えないのだろうか?

とりあえず、できる医者の話を聞いていると、自分が納得のいく話を聞かせてくれるし、国立大学の医者に不相応なリッチな暮らしをしている学会ボスがいるような学会の話は、私の臨床感覚とまったく合わないことを言うことが多い

最近になって(うつ病学会が軽症のうつには抗うつ剤を使うなというのと同じで、製薬会社の接待禁止の時期と妙に重なるのだが)、血圧や血糖値のコントロールを、薬より食事が強調されることについても、いろいろなものを年をとってから我慢させるより、好きなものを食べて、薬で少し(正常になるまでという意味ではない)調整したほうが、はるかに人間的だという話も聞かせてくださった

その通りだと思う

死ぬ前にがまん、がまんで何が楽しいのか?

私だって、そっちを選ぶ

ということで、勉強になった一日だった