昨日は、とある会社の偉い人たちと、今後の事業の打ち合わせ

やりたいことなどを少し話させてもらった

うまくいくといいが

さて、そういうわけでやや酒量が多くなって、寝坊してしまったが、午前中は、新しい本の口述筆記(正直に告白するが、自分で書くだけでなく、しゃべった内容を本にしてもらうことは珍しくない)

生き方の本なのだが、その中で、素直に人を信じることができない、素直に人に頼れない、つまり素直に人に甘えることができないという人たちの問題点が話題になった

その中でした、『甘えの構造』と『バカの壁』の話が自分でも面白いと思ったので、もう一度書かせていただく

私自身、自ら、その精神分析を受けたことがあるし、亡くなってからも人生の師と尊敬し続けている土居健郎先生の、名著『甘えの構造』はタイトルが有名になりすぎて、人に甘えてはいけないということを説いたように誤解されている

実際は、素直に甘えられないほうがすねたり、ふてくされたり、ひねくれたり、被害者感情をもったりして、人間関係も悪くするし、心の健康にも、成熟にも悪いという話だし、甘える体験をしたことがないと、ちゃんとした自分をもつことができないという話を書いた本だ

そして、素直に甘えることができる人は、きっと相手はわかってくれるはずだと思えるから、相手に本音や要求をぶつけることもできるし、悩みを打ち明けることもできる。結果的に、相手がわかってくれることが多く、どうせわかってもらえないといじけている人より、自分が自分でいることが容易になる

精神科の医者の立場で言うと、まさに本当だなと思えることだ

ところで、私にとっては、東大医学部の大先輩だし、自分が学生時代に解剖学の教授で、ものすごく甘く進級させてくれた恩人の養老孟司先生は、甘えの構造の30年以上後に、『バカの壁』という本を書いて空前のベストセラーになった

この本は、実は、『甘えの構造』とまったく逆のことを言っている

人間とは、それそれのフレームワークや思考の枠組みで話しているので、自分では言いたいことを話したつもりでも、相手が自分が話した通りに受け取ってくれると考えるのは甘いというのが、この本の趣旨だ

バカの壁ということばを使っているが、バカにもリコウにもこういう壁はある

ただ、わかってくれるはずだと自分で言いたいことをいっても、わかってもらえると考えるのが甘いという考え方は、現在の認知科学の考えとしては確かに正しいと言っていい

養老先生は、心理学者でも精神科医でもない、脳の解剖学者という客観性を重視しないといけない(客観なんかあり得ないという科学的な考え方もお持ちのようだが)立場だから、その発言はまさに正鵠を射ている

ただ、面白いと思ったのは、今から40年前には、「人間というものは、わかってくれるはずだから、素直に甘えて話してごらん」というような本がベストセラーになり、今から約10年前には「わかってもらえるなんて甘い」という本が空前のベストセラーになったということだ

『バカの壁』が出た頃には、アメリカ型の自己責任の価値観が蔓延し、もたれあいだのケイレツだの日本型の家族的経営はすっかり否定されていた

しかし、いっぽうで自殺は3万人以上が当たり前になってもいた

養老先生のいうことは正しいのはわかるが、私は患者さんには、「わかってもらえるはずだから、素直に甘えてごらん」「素直になんでも話してごらん」と言ってあげたい

甘えて何が悪い、わかってもらえると考えるのが甘くても、それでも甘えることで人間関係や幸せはひらけるはずだと心から信じている