茂木健一郎さんが、今回の入試問題漏えい事件に対する大学や警察の対応に怒っているということが話題になっていたが、私も今回の事件はとても後味が悪かった。

前にちょっと触れたかもしれないが、娘が大学でPCを盗まれたことがあったが、ふたをあけてみると貧しい学生が、医学部の編入試験に合格したので、学資を稼ぎたいという出来心からのものだった。

もちろん、カンニングにしても盗みにしても悪いことであるのは確かだ。

前者については、まじめに勉強している受験生を愚弄しているという点で、私も教育産業に身をおく立場からも許せない。盗みについては立派な犯罪行為だ。

ただ、どうしても同情してしまうのは、これらの犯罪がさほど豊かでない人間が這い上がろうとして、しかもそれなりの努力をして、結果的に短絡的な行為で下手をすると一生をフイにしてしまうということがあるからだ。

おそらく二度とそんな悪いことをしそうにない人であることも含めて、人間として可哀そうになってしまう。何度も言うが、精神科医というのは、機械のように冷静な人間より、私のような感情的な人間のほうがうまくいくことは珍しくない。そういう感情的な人間として、とても後味が悪いのだ。

もう一つ思ったのは、ここにも格差社会の現実があるということだ。

金がある人間であれば、こんな不正をしなくても、いい大学に入ることもできるし、罪も軽くなったりする。

前からニューヨーク慶應学院に低学力の人間が入り、そこからそのまま慶應に入るという話を書くと、訴えてやると息巻く人や激しい抗議を受ける。私はニューヨーク慶應の中に優秀な学生がいないなどと言ったことはない。ただ、○○学園の高校に上がれなかった人が入るなどということがときどき起こる、それが兄弟続けて起こるという事実を見聞きしているので、一部、金があるから入る人がいるのではないかという強い疑念をもっているだけだ。こういう書き方をしても騒ぐ人というのはどういう心理なのか?よほど、言われたくない事情があるのだろう。ニューヨーク慶應出身で、公認会計士か何かに受かった人も知っているが、この手の人は、「確かに困った奴らもいる」と素直に認めてくれる。バカだと思われたくなければ努力すればいいだけの話だ。

そしてこれが事実とすれば、努力を大してしなくても、もちろんカンニングなどしなくてもそれなりの学歴が得られる人が一定数いることになる。

あるいは、このカンニングの子供も、マスコミの袋叩き(思ったより同情的なコメンテーターがいてほっとしたが)にあっているが、慶応の集団レイプ事件の主犯の男の子のように、親が医学の世界で権威であると、なぜか20歳を超えていても実名報道されない。さらに偶然なのだろうが、親のかかわっている学会で、高齢者の薬を減らす研究や薬を減らすガイドラインをつい最近まで出さなかった。そこまで製薬会社に遠慮しないといけなくなった事情があるのかとつい邪推してしまうが、そのせいで年に1兆円くらいの薬剤費が無駄になっている試算はうそではない。

それ以上に、許せないのは、テレビが人間の罪を決める現実だ。

裁判所というのは、罪の程度や情状に応じて判決を出す(最近は、マスコミに合わせる裁判官も出てきているが)

しかし、テレビというのは罪の程度と関係なしに、ディレクターやプロデューサーがこいつを思い切り、叩こうとか話題にしようとする人間だけを目立たせる。

少年の殺人事件が年に100件も起こっていてもほとんど報じないのに、人殺しをする少年の何十倍、何百倍もカンニングをした男の子のことを話題にする。

製薬会社の圧力があれば集団レイプの主犯の実名も報道できない癖に、カンニング事件くらいで、プライバシーが丸バレになるような報道をする。

ごくごく微罪でも、一人の人間の人生をボロボロにすることに何の抵抗も感じない。

いっぽうで、少年法とかいうものにビビって札付きの不良が人殺しをしても、ろくに報じない。

善と悪の二元論で行けば、悪にカテゴライズされた人間はどんなにたたいてもいいだろう。たかが政治資金の記載漏れくらいで政治生命を奪うのもその延長だろう。

しかし、コソ泥と殺人は程度が違うという考え方だってあっていい。

その場合は、微罪で騒いで、重罪でろくに報じないというのは、たとえば子供に罪の程度を教える上でも、非常にやりにくい。

目立たないように人殺しをすればそれでいいのか?

裁判は、実際の刑を決める。

しかし、社会的制裁のほうは、現時点ではテレビの影響力が大きすぎる。日本人はネットよりテレビを信じる、リビアやエジプト人以下の知性しかない人が多すぎる国だというのを忘れてはいけない。

現に映画のベスト10のうち5本くらいはテレビがらみだし、音楽のベスト10は嵐とAKBで占められ、政治家もテレビに出ていないと知事にも大臣にもなれない。

こんなこと恥ずかしくて外国に言えない。

そして、この落ち目で、スポンサーがないためにパチンコ屋べったりのメディアは、人々の社会的制裁を、何の資格もないプロデューサーやディレクターが決めるというおそろしいシステムを採用している。しかもチェックなしに。

総務省は何をやっているのだろうか?

え、片山さん(この人もテレビのおかげで偉くなった人だからテレビに逆らえないのだろうが?)