森口朗さんという教育評論家の方がいる。

前に書かれた『いじめの構造』もそうだが、いろいろな形で現場の声を聞くことにせよ、実際に起こっていることの分析にせよ、とてもフェアで信頼できるものだし、説得力がある。

で、近著の『日教組』という本を、アメリカの行き帰りの飛行機で読んだ(最近は映画をまとめて観るのに使っている。今回は『ウォール街』の新作と旧作や、ソーシャル・ネットワークなどを見た。オリバー・ストーンという人はやはりすごい監督だ。そういうわけで1冊の本を読むのに往復かかってしまう)

これもいい本だ。もちろん、私は日の丸と君が代については、明治以降のもので、国旗や国歌に仰々しい態度を取ることが、本質的な日本の伝統と思っていない立場なので、一部見解が違うところがあるが、これもきわめてフェアな観点から書かれているし、実態もたぶんこんなものだろうと思っているものと近く、いろいろな日教組の悪口本と違って、説得力があった。

ただ、私は、別の観点から、この本を高く評価しているし、読む価値があると思っている。

日本人が混乱しがちな、戦後左翼の歴史、社会党と共産党のスタンスの違い、さらに新左翼の意味などをきわめてうまく整理している。実際、私は新左翼の人間と精神障害者の解放運動などをしていたので、本書の観察が私の実感にとても近かった。

もう一つの重要な視点は、日本の教育を悪くするのは、日教組が主犯というのはおかしいと明言していることだ。

もちろん、組織として弱体化した今はよけいにそうだが、昔だって、教育政策に日教組が関与していたわけでない。会社の業績が悪いのを組合のせいにしているなら経営陣は無能だとされるように(実際には、そういうことはないわけではないだろうが)、為政者が日教組のせいにして責任逃れが許されるわけがない。

たとえばゆとり教育にしても、確かに日教組の主張を受け入れている点はあるが、むしろ、これを大々的に進めたのは中曽根臨教審以降の話である。

戦後民主教育にしても、当初は自民党はGHQの意向も受けて、もろ手をあげて賛成していた。

そのほかにも、新左翼の人間が教員になることを地方公務員法の欠格条項を使えば出来たのにしなかったことを含め、自民党はむしろ日教組のやることを黙認していたという森口氏の観察はものすごく妥当だ。

私が自民党を嫌う大きな理由に、ひどいダブルスタンダードが随所に見られることがある。

拉致問題にしても、最初に質問したのは、むしろ共産党の議員だった。

拉致被害者に日本政府がこれだけ低姿勢でいるのは、もちろん、彼らが気の毒な犠牲者であったこともあるが、日本政府が黙認していたことへのおわびの要素は大きいだろう。

とある新聞記者に聞いた話では、少なくとも2回は拉致事件を現行犯逮捕しているのに、すぐに釈放しているという。

むしろ北朝鮮利権のある与党の議員の介入なしにはこんなことができるはずはない。

もちろん、自民党が全員そうだとは言わないが、実は、自民党には、左翼的な側面が意外にある。

いい面に働くこともある。

かつては厳しい累進課税を課し、貧富の差を小さくしたし、予算の分配では地方と都会の格差を小さくした。

だから、左翼だから悪いというわけではないが、今の自民党には、莫大な借金を作ったことも含めて、大きな責任はあることがかなりあるのは確かなことのようだ。