公務員の給料を下げるより調達のほうをきちんと値切るべきという話をしたら、調達のほうは民間に行く金なのだから、調達のほうを守って、公務員の給料を下げるべきだし、なぜ私が公務員の肩をもつのかという質問の(当たり前すぎて書くのも恥ずかしいとか言っているくらいだから非難のメッセージなのだろう)メッセージをいただいた。

私は公務員の味方をするつもりはない。金持ちでない人の味方をするつもりで書いた。

公務員の給料が下がって、調達のほうにバンバン金を使うのならそれで景気がよくなるなり、民間の給料が上がるのなら、それは素晴らしいことだ。

ただ、公務員の給料をよしんば半分に削って、コクヨの事務机を一台100万円で買っても、コクヨの社員の給料はそうは上がらないだろう。おそらくは社長と株主のほうに流れるだけだ。

これまでの公共工事でガードレール1本に30万円も払っていたときでも、末端の工事労働者はそれほど給料をもらっていなかったが、田舎の土木の社長はみんなリッチだったし、それから金をもらう政治家もリッチだった。「調達」も税金が原資だが、金持ちに流れるのが基本だ。

公務員給与がたとえば20%カットという話になった際に、春闘で、公務員の給料を下げることで税金が安くなるから来年は5%の賃上げをと組合が要求しても、おそらくは公務員が20%もカットされていうのだから君たちは10%のカットでも公務員より恵まれていると経営者は言うだろう。

私の予想がはずれたら素直に謝るが、おそらく公務員給与のカットが余計に民間の一般社員の給与を下げる結果にしかならないとしか私には思えない。

公務員と言っても、確かにふざけるなという給料をもらっている人もいる。高級官僚などの給料はチェックすべきだったりもするだろう。彼らの給料の上限を下げたところで、一般労働者の給料を下げる理由には使えないから、その待遇を悪くするのはかまうまい。ついでに言えば、彼らの天下り先の特殊法人などどんどんつぶしてもいいだろう。

私が言いたいのは一般労働者である公務員給与を下げても、結果的に自分のくびを締めることになるということだ。

ただ、意外に知られていないことは、たとえば民主党の議員が事業仕分けでいいかっこをする背景に、その前後の時期に、若い官僚たちが1日20時間労働のような形で準備していることだ。

民主党でさえ、官僚が動かなければ何もできないし、官僚というのは、これまでは税金の無駄遣いのような仕事をどんどんやっていたのに、政治家が変われば、自分たちの天下り先を減らす仕事のために寝ないで働くということだ。上がしっかりすれば、「使える」人たちでもある

庶民感情を考慮するのが当たり前、公務員の報酬はわれわれの税金で払っているという考え方も否定はしない。

現実に、公務員にしても税収が減った今、常勤の人はかなり優遇されているが、非正規雇用の人は相当安い賃金でこき使われている。

税金で雇われるのだから庶民感情で好きに給料が決められるようになった際に、どれだけ優秀な人が公務員になりたがるのかという問題はある。

今でも、教育の世界では、教師より、実力があれば給料がいくらでも取れる予備校講師のほうができのいい人には人気がある。

ただ、そのおかげで、塾や予備校に行ける人はいいサービスを受けられるが、そうでない人は教育サービスの低下が問題になっている。

ただ、一つ言えることは、自動車会社の社員が、自動車のユーザーの人からお前たちは俺の金で雇われているのだから、給料を下げろとは言われないことだ。

もちろん、自動車のできが悪くて売れなくなったら、結果的に給料を下げられることはあるだろう。要するにニーズに見合った仕事をしていれば給料を下げられることはないし、仕事の出来が悪ければ給料が下げられる。

ところが公務員であれば、仕事の出来不出来に関わらず、これまでは給料が一律に近いシステムであった。カリスマ教師のような人と、無能教師でも同じだった。

これが問題なのはわかる。

しかし、税金で雇われているのだから、庶民感情で給料を下げていいというのは納得できない。

民間と同じにしろというのなら、できのいい人間をもっと上げられるようにする代わりに、ろくに働いていない人間を下げられるシステムを準備しろということだろう。

今の公務員給与のシステムの場合、一律である度合いが強いから、たとえば10%カットという場合、おそらくは一律カットということになるだろう。だから民間に援用されやすいのがリスクというのである。

公務員給与改革というのなら、むしろこの一律性を取り去って、下げたとしても、それは業績に相応したものだという形にすれば、民間の給与を下げる口実に使われにくくなるだろう。

もう一つ言っておきたいのは、私が大学を出た当時は、民間のほうが公務員になるより給料がよかった。

公務員が高いのでなく、民間が下がったのである。いっぽうで、金持ちはより金持ちになり格差は広がった。民間の一般従業員が、労働分配率を上げろと要求するより、公務員の給料が下がって、労働者同士同じ給料になればすっとするというのでは、金持ちを利するだけだ。

嫌味に聞こえるかもしれないが、私にしても年に何千万円も税金を払っている。

子供が二人とも私学に行っていることもあって、おそらくは国や自治体から受けたサービスの総額より払った税金のほうがずっと高いだろう。

それでも、公務員の給料を下げるべきでないと思うのは、これ以上、格差を広げたり、中流の少ない社会になるのが耐えられないからだ。内需がなければ、ますます中国にだって頭が上がらなくなる。

このメッセージの主は公務員が日本をむしばんでいると書いている。

そういう人もいるだろう。私は日本の公務員はそれほどひどいとは思っていない。交通警官はむかつくが職務には忠実だし、お金を100万円積んでも、交通違反を見逃してくれない(私はそんなことをやったことはないが、おそらくそうだろう)。公務員の給料の安い国だと、そういう袖の下が横行するという話は聞いたことがある。

私の感覚では公務員の給料が高いのでなく、民間の給料が安いという印象だ。

少なくとも先進国の中で、この10年間で、給料が減っている国はほかにない。アメリカのような経営者がグリーディな国でも、給料は10年前と比べるとかなり増えている。

別の視点で、公務員のいない社会というのはどうだろう。

警察の代わりに民間の警備会社、学校はみんな私学と塾、軍隊は傭兵、市役所のサービス、たとえば住民票の交付も民間委託、中央省庁は、民間のシンクタンクに委託。税金はタダ同然にできるかもしれない。その代わり貧乏な人は被害にあっても民間の警備会社だから相手にされないし、学校も貧しい人は通えない。

税金の使い道を考えることは悪いことではない。

しかし、官のサービスを減らして、民の割合を増やすほど、金持ちにはおいしくて貧乏な人には損な社会になるのは一方で事実なのである。