昨日は21世紀構想フォーラムという勉強会で、ゲストスピーカーは反貧困の湯浅誠さん。

聞く方のメンバーもすごくて、茂木健一郎さん、南場智子さん、波頭亮さん、山崎元さん、上杉隆さん、そして私(私だけしょぼいが)。

で、湯浅さんの話に対して、もっと会社が首にしやすくすれば、非正規雇用がもっと雇ってもらいやすくなるのではないかという、これまでもよく出てきた議論がなされた。この考え方は経営者、エコノミスト、経済学者にとっては実質的にコンセンサスだということだ。

私は日本の経営者を信用していない上に、日本人は雇用不安があるとお金を使わないから、よけい景気が悪くなるという立場だが、湯浅さんの説明は私も気づかなかったものだった。

要するに、日本の場合、子供の教育費そのほかで40代に一番金がかかるし、いちばん支出も多い構造になっている。年功型の賃金が保障されないと、子供の教育などもできずに、さらに貧困を再生産するという考え方だ。

よくよく考えると、日本の制度設計が、日本の企業の年功型賃金に乗っかった形で構築されているのである。

たとえば、ヨーロッパだとタダが当たり前の高校、大学の授業料が日本だと後ろにいくほど高くなる。

学校教育もどんどんゆとり化して、塾や予備校を使わないと教育レベルが維持できないのが当たり前になる。

医療費も3割負担が当たり前なので、中高年になって血圧や血糖値が高くなるとそれだけ金がかかる。

公営の住宅の整備が悪く、高齢になると家を貸してもらえないので、住宅ローンをくんででも持ち家にしないといけない。

そういう形で、中高年になるほど金がいるように社会のシステムがなってしまった。だから非正規雇用の人は子供を学校にやれない、家が買えないなどのさまざまな問題を30代、40代になってから実感する。

こういう年功型の賃金カーブを受けられる保証がないままクビの自由を会社に与え、非正規雇用をどんどん増やすというのなら、多少非正規の給料が上がったり、雇ってもらいやすくなっても、それがどんどん貯蓄に回るし、正規雇用の人も怖くて金が使えなくなる。

要するに必要支出の中高年になるほど金がかかるというカーブをなんとかするのと、セーフティネットを充実しないことには、企業にクビの自由を渡すと内需が破滅してしまう。

どうすればいいかというと、ヨーロッパのように医療と教育が事実上タダで、塾にいかなくても優等生なら東大や医学部に入れるくらい公教育を充実させて、あとベーシックインカムを確保することだ。

そこらへんがクビの自由を企業に保障したほうが社会は発展するという考え方と、私と湯浅さんの落とし所となった。

そのあと、波頭さんとの対談で、波頭さんがこれからの時代はcomprehensiveな能力が必要になるという話をした。

理解ができるということと包括的という意味なのだろう。もっといえば、全体を見渡す時代ということだ。私もかねてから主張するミクロからマクロの発想である。

私自身も、医学のパラダイムが30年くらいの間に激変すると思っている。

ゲノム医療の時代になると、同じ高血圧でも患者さんのゲノムによって治療が違うことになる個人差の医学の時代になると同時に、一つの臓器だけでなく体全体への影響を考えて治療をすることになる。

要するにこれまでの医療は、一臓器に対する治療であると同時に、同じ臓器の同じ病気は同じ医療をしていたが、ゲノム医療では、ゲノムが体中のすべての細胞に影響を及ぼすので、一人の人間全体の治療となると同時に同じ病気でもゲノムの個人差によって治療が違うことになる。

今の日本の学者はこのcomprehensiveがないため、パラダイムの変化に弱そうだが、大丈夫なのだろうか?